ひかりのあめ 番外編8 | ナノ





ひかりのあめ 番外編8

 誕生日前日、仕事を終えた博人は、急ぎ足で家へ向かった。残業は嫌ではないが、早く帰りたい日に限って、帰ることができない。まして明日は誕生日なのに、と少しだけ悪態をつきながら扉を開けた。
「ただいま」
「おかえりなさい」
 日付が変わるまでに帰ってこられてよかった、と俊治の声を聞きながら思う。部屋の中は甘い香りがした。
「誕生日プレゼントです」
 少し早いが、博人は礼を言って受け取った。中身は知っている。
「趣味がいいね」
 そう言うと、俊治が嬉しそうに笑った。不意にテーブルを見ると、ケーキらしきものがある。誕生日といえばケーキだ。だが、博人の記憶にはケーキを食べた思い出などなかった。
「皆、ケーキなんて食べ飽きてるって思うんだろうね。誕生日にケーキを食べるの、初めてなんだ。どんな豪華なプレゼントより嬉しい。ありがとう」
 にじんだ視界を拭って、博人は潰しそうなほど強く俊治を抱いた。ケーキは誰の目から見ても失敗作だったが、味はいい。きっと何度か練習したのだろうと思うと、博人は俊治のことが愛おしくてたまらなくなった。
「博人さん、俺、これからは家事も料理もちゃんとがんばります」
 俊治からこれから先の言葉を聞けた。ただそれだけで、博人は返事もできないくらい幸せになる。
「そんな可愛いこと言われたら、ベッドまで我慢できないよ」
 俊治に興奮して熱くなっているペニスを押しつけた。ソファへ押し倒してから、ついばむようにキスをすると、ビターチョコレートの味がする。ただ甘いだけの恋をするほど若くはない。
 博人は俊治の体を抱えて寝室へ移動した。彼が連休を取ったことは知っている。白い肌を暴きながら、優しくその肌へキスを繰り返した。緩やかに、俊治のペニスも熱を持っていく。
「まっ、ア……ッ」
 俊治のペニスを口の中におさめると、彼が小さく抵抗した。だが、その抵抗は本気ではないとすぐに分かる。博人は口内で彼のペニスをなぶりながら、くちびるでしっかりとくわえて、上下させた。
「っあ、アァ、ひ、ひろ、ンッ、あ」
 俊治の手が博人の髪に触れる。ぐっと硬度を増したペニスが一度けいれんするように動いた。博人はペニスを解放して、ティッシュを二、三枚取ると、大きく跳ねた俊治の精液を受け止めた。恥ずかしそうに視線を落とす彼のあごをつかみ、頬にキスをする。
「俊治君」
 博人は自ら服を脱ぎ、すでに先走りが流れているペニスにコンドームをつけた。潤滑ジェルを指先に絡めて、俊治のアナルへ入れる。二本目の指を飲み込むまでの時間が短く、博人は小さく笑った。
「準備してたの?」
 俊治が赤くなりながら頷く。胸の突起を舌でいじりながら、三本目を入れて、しばらくほぐした後、博人は自らをアナルへあてがった。
「っ、ア……んっ」
 ゆっくりと動いた後、俊治の前立腺を突き上げるように素早く腰を動かす。短い吐息を漏らしながら、俊治が絶頂を迎えた。博人も後を追うように射精する。俊治の中はまだうごめいていた。いつもなら、これで終わりだが、博人は一度コンドームを交換して、俊治をもう一度抱いた。
 三回挑んだ後、さすがに限界だったのか、ベッドの上でぐったりしている俊治の体をきれいにしてやり、博人はウィスキーのロックを飲んだ。髪や頬をなでながら、この上なく幸せな時間を味わう。シャワーを浴びようかと思うが、俊治の体温は心地よく、博人はそのまま目を閉じた。

 ほんの数時間、眠っただけのつもりだったが、目が覚めた時、俊治の温もりがないことに気づき、博人は慌てて体を起こした。
「博人さん」
 全裸の俊治が、カーテンの間から頭だけ出して、窓の外を見ていた。こちらを振り返り、手招きで呼んでいる。
「見てください」
 ベッドから下りた博人は、促されるままにカーテンの隙間から頭だけ出す。朝陽が出ていてまぶしい。光の間を小さな雨滴が流れていく。
「光の雨みたいで、きれいですよね」
 俊治が言った通り、雨は陽光を受けてきらきらと輝いていた。
「……そうだね」
 博人は光の雨とそれを見つめる俊治を見た。きれいなのは彼の精神だった。
「俊治君」
 五文字の音で今の気持ちを伝えると、カーテンの隙間から陽光を受けた俊治自身が、まぶしい笑みを見せた。

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