ひみつのひ9/i | ナノ


ひみつのひ9/i

 秀崇と一輝が付き合っている事実に、稔は大きなショックを受けなかった。もともと秀崇と智章が付き合っていると言われていて、稔もそう思っていた。その相手が一輝になったところで、嘆く必要はない。一輝も秀崇につり合う人間だと思うからだ。
 稔は前の席に座り、話し込んでいる二人を見た。秀崇のことが好きだから、彼が愛しそうに一輝を見つめるさまがよく分かる。
「勝ち目ないね」
 隣から智章が笑ってささやく。稔はうつむいた後、智章を見た。薄いブラウンの瞳が光る。
「……別に、彼が幸せならそれでいい」
 それは本心だった。だから、笑いながら言った智章にその思いを汚されたくはなくて、明確に言った。
 降車駅のアナウンスに、秀崇が振り向く。
「着いた」
 稔と智章の間に流れていた空気が動く。バスを降りたところで、智章が稔をうしろから抱きしめた。突然のことに稔が固まっていると、智章は先を歩く二人に告げる。
「映画、二時からだろ? メシは別行動にしよ」
「分かった。十分前にはセンター前に来いよ」
「あぁ」
 抱きつかれたまま動けない。智章はわざとらしく、耳のうしろへ息を吹きかける。粟立つ肌に、ぎゅっと目を閉じると、智章が言った。
「来いよ」
 体を離されて、稔はうしろを振り返った。智章はもう歩きだしている。彼の考えていることがさっぱり分からなかった。秀崇たちに気をつかって、別行動にしたんだろう。だが、稔にとっては迷惑なことだ。これから一時間以上、彼と二人で過ごすなんて、拷問に等しい。

 帰るとは言えず、一人で食べるとも言えず、稔は智章の前に座っていた。温かかったはずのハンバーグドリアはもう冷めている。稔はサラダからトマトだけをフォークで突きさして口に入れた。
「さっき」
 コーヒーを一口飲んだ智章がテーブルにひじをついて稔を見た。
「秀崇が幸せならそれでいい、とかきれいごと言ってたけど」
 智章が秘密を見つけたような瞳で稔を見ている。稔は視線をそらせず、次の言葉を待った。
「あいつに抱いてほしいって思ってるんだろう?」
「っそんなこと」
 すぐに否定できなかったのは、テーブルの下で、智章が足を伸ばしてきたからだ。彼の足は稔の右ひざを軽く蹴り、内股へ触れる。
「やめっ」
 立ち上がろうとしたが、声に反応した店員がこちらを見たため、稔は慌ててうつむいた。
「股、開けよ。今日は足で可愛がってやる」
 智章の言葉に稔は弱々しく首を振る。
「何で……なん、で」
 自分が何をしたのか、自分の何を気に入らないのか、稔は智章が分からず、小さく嗚咽を上げた。
「もう食べないなら、行くよ?」
 稔は眼鏡を取って、あふれる涙を拭った。先に立っていた智章が伝票を持っていた。財布を出して支払いを済ませる様子をぼやけた視界で見ていた。自分の分は払うと言い出したいのに、嗚咽が止まらない。
「何で泣くの?」
 智章はうっとうしい、と続ける。そして、溜息をついて、稔の腕を引いた。レストルームに連れていかれる。トイレにいいイメージがない稔は足を止めた。


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