ひみつのひ8/i | ナノ


ひみつのひ8/i

 その日はもうどこにも出る気になれず、稔は誰よりも早く浴場へ行き、夕飯を済ませた。悠紀からメールが来たが、少し風邪を引いたみたいだ、と返信しておいた。ベッドの中で、智章にされたことを思い出すと、また涙があふれる。
 智章があんなことをするくらい自分のことが嫌いなんだと思うと、悔しさよりも悲しみが勝った。土曜日は必ず断ろう。彼の気に障りたくない。稔は朝一で秀崇に言おうと決めた。

 翌朝、稔が起きて秀崇の部屋の扉をノックすると、中からは反応がなかった。食堂でも会わず、悠紀の話を上の空で聞きながら、稔は登校した。寮が同室でもクラスが違うため、稔と秀崇が校内で会うことはほとんどない。昼休みに会いに行こうかと考えたが、昨日のことを思い出すと、秀崇の教室へ行くのはためらってしまう。
 昼休み、悠紀には言えなかったが、稔は朝からクラスメートのよそよそしさを感じていた。あいさつはなく、距離をおいてひそひそと話している。自分のことではないと言い聞かせたが、気分がいいものではなかった。結局、昼休みも食堂では秀崇を見かけず、稔は早々に風呂へ行き、部屋で彼の帰りを待つことにした。

 ノックの音に目を覚ますと、稔は眼鏡を探した。
「菅谷?」
 返事をしていないのに、秀崇が扉を開けて入ってくる。
「あ、まだ寝てたのか? 早く着替えて。映画の時間に間に合うように出ないと」
 稔はテーブル上の眼鏡をつかみ、目覚まし時計を見た。十時を回ろうとしている。驚いて眼鏡をかけて見ても、やはり変わらない。
「昼はそのへんで食おうってなってるから」
 秀崇はそう言っていったん出ていく。
「遠峰」
 断らなければ、とその背中を追いかけた。部屋を出たところで、足がすくむ。黒のジーンズにモスグリーンのシャツを着た智章が振り返った。
 智章が無言でこちらを見下ろしている。いつもは上げている前髪を今日は下ろして、右へと流していた。冷たい瞳で見つめられ、稔はただ小さくなる。
「お待たせ!」
 鍵の開いた扉を押して、一輝が入ってくる。
「あれ? 菅谷、まだパジャマ?? 早く用意して来いよ!」
 一輝はぽんっと稔の頭を軽く叩いて、智章へ笑顔を見せる。智章も一輝へ笑みを見せた。
「秀崇なら中にいる」
「うん」
 一輝が奥へ入ると、智章は稔の腕をつかみ、稔の部屋へと押し込む。その力強さは一昨日のことを思い出させて、稔を萎縮させる。
「顔、洗って早く着替えろ」
「あ、あの俺」
 行かない、と言いたかったが、睨まれて言葉が喉に詰まった。
「早く」
 智章に急かされて、稔は急いで準備をした。
「行ける?」
 秀崇に尋ねられ、稔は頷いた。秀崇は一輝と並んで話しているため、必然的に稔が智章と並んで歩くはめになる。
 それはバスの中でも同様で、悠紀に鈍いと言われる稔でもさすがに気づいた。秀崇と一輝は付き合っている。


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