ひみつのひ2/i | ナノ


ひみつのひ2/i

 放課後、図書館の脇にあるトイレで稔は自分の姿を鏡に映した。ノンフレーム眼鏡のレンズが厚く、極端に目を小さく見せる。眼鏡を取れば、すべてがぼやけて見える。稔は眼鏡をかけて緑のネクタイを締めなおす。
 おしゃれなクラスメートはネクタイを緩めたり、制服シャツの下にカラーシャツを着たりしている。秀崇は黒のシャツ、智章はピンクのシャツを着ていた。いいな、と思う。稔がそういうことをしても似合わない。稔は溜息をつき、トイレを出た。

 稔は図書委員ではなく、本が好きという理由だけで毎日図書館へ行く。図書室ではなく図書館と名のついたそこは、裏庭にある大きな円形校舎だ。昔はその円形校舎でも授業が行われていたが、数十年前の改装工事のあとから今の図書館になった。三階建てだった校舎は吹き抜けの中二階建てに変わり、蔵書数は中等部の図書館をはるかにしのぐ。稔が入り浸らないわけがなかった。
 もはや顔なじみになっている稔は二人の図書委員にあいさつをすると、本棚から目当ての本を取り、中二階にあるソファに座った。稔が読んでいる本は貸出禁止のため、ここでしか読めない。
 しばらく読みふけっていると、図書委員の一人が目の前にいた。気づかなかったのは本へ視線を落としていたからであり、彼が声をかけなかったからだ。だが、声をかけなかったのは邪魔をしたくないという気づかいであることを稔は知っていた。
 図書館は十九時が閉館時間で、寮の消灯時間は二十一時だった。もちろんその時間を過ぎても見つからないように、友達の部屋に集まったりすることはできるが、夕食と風呂はその時間までに済ませなければならない。たいてい運動部の生徒たちが遅くなるため、文化部の生徒たちか部活動をしていない生徒たちが先に夕食を済ませて風呂へ行っている。
「いつもすみません」
 稔が本を閉じて立ち上がると、図書委員の彼が笑う。
「早く食堂行けよ。運動部の連中に定食、とられるぞ」
 稔は頭を下げて礼を述べ、急ぎ足で図書館を出た。外は薄暗いが図書館と校舎の明かりで道は照らされている。いつもならいったん部屋に戻るが、今日はそのまま食堂へ足を運んだ。

「すがっち」
 すでに食べ始めている親友の星川悠紀(ホシカワユウキ)が、箸を握った手を振り上げる。 稔は軽く手を挙げて、食券を買う列へと並んだ。
「あれ、うどん?」
 三回の食事の中では日替わり定食がいちばん人気だ。ご飯のお代わりも自由なため、たいていの生徒は定食を注文する。
「あんまり食欲なくて」
「部屋、戻らなかったのか?」
 鞄を持ってきていた稔に、悠紀は眉を寄せた。
「またあいつ来てんの?」
「あいつじゃない。藤だよ」
 稔はうどんに息を吹きかけて冷ましながら食べる。
「部屋に人呼ぶのは自由だけどさー、遠峰もちょっとは気、つかえばいいのに」
 どういう意味かと視線で問うと、悠紀はソースのついたトンカツを口元へ運ぶ。
「誰が見ても藤はおまえに当たってるだろ?」
「そんなこと」
「ないわけないじゃん。あいつ、中等部の時、遠峰の同室になった奴、いじめてた。おまえにだけ手を出さないなんてありえない」
 悠紀はがぶりとトンカツを頬張った。




1 3




main
top




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -