ひかりのあめ 番外編9/i | ナノ


ひかりのあめ 番外編9/i

 定休日の水曜の他に土曜と月曜が休みの俊治は、目覚まし時計を止めた。いつもなら早起きしない土曜の朝だが、今日は予定がある。隣で眠っている博人を起こすと、彼もまだ眠そうだった。
「俊治君、先、シャワー?」
「はい」
「いってらっしゃい」
 そう言った後、またベッドへ沈んだ博人に、俊治は苦笑する。ここ数年の間に博人の仕事は以前より増えているようだ。残業も多く、休日もパソコンと向き合う日が多い。
 博人は法務部のサブチーフとして働いており、付き合い始めてしばらくした頃、人事異動があったが、彼は今の役職から変わらなかった。変わらなかったのに、仕事だけ増えている。
 俊治がそのことを聞くと、博人は三年頑張れば、今の職場から異動せず、そのままチーフに持ち上がり、妥当にいけば部長になれると話してくれた。
 俊治には博人の仕事のことはさっぱり分からない。彼は家で仕事の話をするのは好きではないようだ。
 だが、俊治の職場の話は聞きたがる。オーナーと顔見知りだからかもしれないと思っていたが、いつも自分の話を聞いてばかりで飽きないのか疑問だった。だからといって、博人の仕事の話はさっぱり理解できないから、結局、今まで通りでいい。俊治はそう考え、かすかに笑った。
 シャワーを浴びてから着替えて、寝室へ戻ると、博人はまだ眠っていた。あと半年ほどで、博人の言っていた三年だ。チーフへ昇格すれば半個室ではなく個室になると話していた。もう少し眠らせてやりたかったが、俊治は彼の体を揺すった。

 予定というのは博人の親友とランチをするというものだった。手土産を持っていくため、百貨店へ寄る。車を一時間も走らせると、約束の市内へ入る。そこからはナビを頼りに老舗の中華料理店へ向かわなければならない。
 博人の施設時代からの幼馴染である芳川貴雄には何度か会ったことがある。博人から直接は聞いていないが、初めて会った時に渡された名刺を見て、彼の組織が自分を透やオーナーから守ってくれることに一枚噛んでいるのではないかと予測した。
 貴雄は柔らかい雰囲気の博人と異なり、厳しさと鋭さをかね備えている。彼はもちろん俊治とは普通に話してくれるが、持っている雰囲気はそう簡単には隠せない。
 怖いとは思わないが、近づきたいとも思えないタイプだった。だが、彼のおかげで透達から強請られることもないのだから、感謝している。
「はい、お疲れさま」
 サイドブレーキを上げた博人が、こちらを見る。
「ここの中華、すごくおいしいんだよ」
 車から降りた博人が、後部座席から手土産を取り出す。個室は本館とは別室になっているようで、本館からチャイナ服姿の店員が、別館へ案内してくれた。
 博人は貴雄と三ヶ月に一回程度は会っており、貴雄の恋人とも顔見知りだと言っていた。今回の食事会は、俊治と貴雄の恋人である一弥を紹介するためのものだ。
 貴雄は普通に結婚して、子どもができて、うるさくて困るくらいの大家族を築くと思っていたんだけど、と博人は苦笑していた。
 一弥という名前からして男だろう。どんな人だろうかと想像しながら、別館へ入る。円形のテーブルに座していた貴雄と一弥がこちらを見た。
「お久しぶり」
 博人が笑顔を見せると、二人も笑った。俊治があいまいに笑みを浮かべると、一弥が声をかけてくる。
「え、この人が博人さんの恋人?」
 一弥の言葉に俊治はぎくりとした。博人に釣り合わないのは自分でよく分かっている。だが、一弥の口から出てきたのは、予想していた言葉ではなかった。


番外編8 番外編10

ひかりのあめ top

main
top


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -