ひかりのあめ 番外編4 | ナノ





ひかりのあめ 番外編4

 うつむいて、もそもそと話す俊治を見て、博人はすぐに抱き締めたい衝動に駆られた。くちびるの端のケガを見た時、博人は自分が考え、悩んでいたことは、本当にちっぽけなことだったのだと思い知った。
 好きな人が傷ついている。それを助ける方法なんて何でもいい。金で縛ることになっても、それが自分のエゴだとしても、俊治の傷ついた姿を見るのはもう嫌だった。
 軽く抱き締めても、頑なに大丈夫だと言う彼は泣きそうな表情で自分の名前を呼ぶ。
 それから、また大丈夫とでも言いたげに、腕を突き出して離れようとした。
「俺の恋人になって? すぐにじゃなくていい。とりあえず一緒に住んでくれないかな?」
 なるべく優しく笑みを浮かべて、博人は思いを告げた。きっとすぐには信じないだろう。目の前で唖然としている俊治のくちびるへ触れた。
 ケガの手当てという名目で何とか車の中へ俊治を押し込み、博人はホテルへ連絡を取った。運転しながら、自分の狡猾さに嫌気がさしたが、隣で疲れて頭をふらつかせている俊治のことを思うと、自分のずる賢さと金を使えば、彼を幸せにできる気がしてくる。
 一番なりたくない大人になっているという事実は、博人を少し感傷的にさせたが、それで俊治が手に入るなら構わないと思った。

 仕事の合間に、世話になっている不動産会社へ手頃な物件を集めさせた。俊治はアルバイトのことを明言しなかったが、あの様子ではおそらく辞めたのだろう。そして、辞めたということは、オーナーと何かあったに違いない。
 いったんホテルへ戻った後、俊治と食事を済ませた博人はベッドの上でうたた寝した。俊治が何も言わないなら、あえてこちらから何か行動を起こすのはよくない気がする。透のことはまだしも、オーナーのことはまったく聞いていない。
 博人はオーナーから俊治に構うな、と言われていた。嫉妬心を見せる男は醜いと思っていたが、自分だって嫉妬している。
 ぼんやりと考えながら、寝返りをした時、俊治の小さな声が聞こえてきた。ソファの向こうで泣いている俊治とその前に落ちている携帯電話を見つける。博人は携帯電話を拾い上げた。表示されている写真を目にした瞬間、腹の底から怒りがわいた。
 その怒りを制御して、博人は泣いている俊治を抱き締める。ゴミだと言っていた俊治の言葉が、今になって形になり、博人に言葉の強さを見せつけた。
 俊治がまだ話していなかった透のことや家のことを話してくれる。俊治が優しいということは分かっていたが、まだ親に守ってもらえる立場でありながら、一人で抱えてきた彼に、博人は甘やかしたいという気持ちでいっぱいになった。
 話してくれてありがとう、とキスすると、俊治はどういう反応をしていいか分からないと言いたげな表情を見せた。嫌いにならないか、と聞かれて、逆にどんどん好きになっているのに、と苦笑してしまう。
 俊治なら話しても大丈夫だと思い、博人は自分が孤児だったことを伝えた。俊治の反応は想像通りだ。博人は笑みを浮かべる。自分の存在で迷惑がかかると思っている俊治をとても愛しく思った。
 優しく一人より二人だと諭し、始めようと言うと、俊治が返事をくれる。やっと関係が進んだことが嬉しくて、博人は仕事の疲れさえ飛んでいくような気分になった。
 バーを辞めたと言う俊治を言葉で丸め込んで、一気に同棲まで持ち込む自分には閉口する。だが、俊治の献身的な性格は博人がとうの昔になくした純真さに似ていた。彼を手に入れることでそれが戻ってくるとは思わない。ただ、ずっとそばで守っていきたいと思った。

番外編3 番外編5

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