ひかりのあめ 番外編3 | ナノ





ひかりのあめ 番外編3

 俊治が体調を崩していると聞いて、博人は一杯だけ飲み干すとすぐに店を出た。水曜に彼を見なくなり、他の曜日に来ても会えない。日曜も会えず、俊治のために作った料理が余るようになった。
 初めて部屋へ来てくれた日、俊治は友達のことだと偽って、彼自身の話をしていた。体調不良だと聞いても、あの話を聞いた後では、彼の身に何かあったのではないかと考えてしまう。
 博人はプライベート用の携帯を取り出して、俊治から連絡が入っていないか確認した。だが、誰からも連絡はなかった。
 俊治が今まで遊んできたタイプとはまったく異なるタイプだということは分かっている。頼りにしていいと言っても、簡単に人を頼るような人間ではない。
 だからこそ、博人は俊治のことを気に入っていた。できることなら彼と付き合ってみたいと考えていた。彼が吐露したことを解決すれば、おそらく彼は自分に心をあずけてくれるはずだと思った。だが、金で縛るような関係は彼を疲弊させるだけだろう。
 博人は自宅のカウンターに座り、ロックで入れたウィスキーを飲み干した。週一回、この部屋へ遊びにくる程度の関係をどうして変えていけばいいのか、博人は久しぶりの恋に悩んだ。

 やはり体調が悪いのか、俊治の様子は少しおかしかった。博人は彼が倒れるのではないかと思いながら、客に呼ばれてカウンターから出てきた彼を目で追う。
「俊治君!」
 倒れそうになった俊治を支えた博人は、俊治の顔色の悪さに胸が痛んだ。いじめから助けてくれたからという理由だけで、これまで透に金を渡し続けてきたという話を聞いた。だが、博人にはその理由だけではないということは分かっていた。
 辛い日もこうして働いて、透に金を渡している。博人はひどく透の存在に嫉妬した。自分なら俊治を幸せにできるはずだと思った。
 奥から出てきたオーナーが、かすかに睨んでくる。何となく気づいていたが、彼も俊治のことが好きなのだろう。博人はオーナーに肩を抱かれ、奥へと連れていかれる俊治の背中を見送った。もっと近づきたいのに、どんどん遠ざかっていく。

 印刷された資料を手にした博人は、ページ数を確認した後、印刷機の前でしばらく立ちつくしていた。
 手に入りづらいものを手に入れたいと思うような感覚で、俊治のことを落とそうとしているのだろうか。彼は確かに好みのタイプだが、透のことを聞いた後ではどこかで同情している自分がいる。金で解決すれば手に入ると思うと簡単だが、それは博人が望むものではなかった。
 俊治が他の人間のように、博人の地位や収入に惑わされるようなタイプなら、もっとラクなのに、と思う。だが、そうではないからこそ、ひかれているのだ。博人は自分の席へ戻り、資料のチェックを開始した。

 博人はいつもの道を走っていた。ミーティングが長引いたため、すでに二十時を回っていたが、あまり疲れはなかった。前の車が車線変更をしようとしていて、博人は注意深く前方を見た。事故でも起きたのか、警察官が誘導しており、博人は溜息をついて、車線変更をした。
 遠回りになるが、線路沿いに走ったほうが空いているだろうと思い、右折する。もう一度右折して線路沿いの道路を走行していると、ハイビームになったままのライトがまぶしかったのか、歩行者が顔をおおった。博人はライトを切り替えて、そのまま直進する。
 ふとバックミラー越しに確認すると、背格好が俊治に似ていた。思わずブレーキをかけて、よく見ようとした。見間違いなら、そうとう思いつめていると笑ってしまうが、俊治本人だったら、それこそ恋の病だと呆れるしかないと、博人はすでに苦笑いした。

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