ひかりのあめ 番外編2 | ナノ





ひかりのあめ 番外編2

 あれから、真面目に付き合うことはできなくなった。少し深い関係になると、皆、自分ではなくて、自分に付帯しているものを見ているだけなのではないかと疑った。
 博人は審議中の案件から視線を上げて、小さく息を吐いた。ドラフトを渡しにきた同僚のアレックスに見られて、苦笑を浮かべる。
「溜まってるのか?」
 疲労とも夜のストレスともとれる聞き方だったから、「どっちも、それなりに」と答えて笑った。
「この間、バーで俺達に絡んでた子は? 遊びにはちょうどいい相手だ」
 博人は軽く頷く。
「まぁ、おまえのタイプじゃなかったけどな」
 アレックスはそう言って、壁に寄りかかる。
「そろそろ真面目な付き合いをしてもいいと思ってる……って俺が言ったら驚く?」
 いたずらを告白する子どものように言うと、アレックスは首を横に振った。
「女ならおまえにピッタリの子、紹介できるぞ? でも、男がいいんだろう?」
 実際にそう聞かれると、肯定する自分がいる。どちらも恋愛対象になるが、特定の誰かと付き合うなら、同性がいいと考えていた。
 それは博人の心に傷を残したのが異性の恋人だったからかもしれない。それにいずれ子どもを盾に離婚や遺産のことを言い出すかもしれない。そういう意味で異性とは付き合えないと思っていた。
 そして何より、まっとうな家族の中で育たなかった自分が、はたして子どもを幸せにできるだろうか、という疑問が博人の中にくすぶっていた。
 幸せな家族を築きたいと思っても、それは理想であり、現実はそうではないことを、博人は嫌というほど経験している。
「物欲がない、清楚な子、いないかな? きれいで、遠慮がちで、でも、ベッドの上では激しい感じの」
 博人が希望を告げると、アレックスは腹を抱えて笑い出した。
「ハイレベル過ぎだろ。でも、そこまで明確に言えるってことは、それに近い人間を知ってるってことだ。知り合いにでもいるのか?」
「まだ知り合いじゃない」
 アレックスは頷くと、ようやくドラフトを差し出した。
「今日は水曜だ。たまには早めに切り上げろよ」
 書類の束を受け取った博人は審議中の案件を閉じる。ディスプレイに表示されているスケジュールを確認すると、今夜はどうやら定時で上がることができそうだ。

 博人は一度家に帰り、シャワーを浴びてから、俊治の勤めるバーとは別のところで飲んだ。心地よくなったところでタクシーで移動して、おそらく俊治のいるバーへ向かう。
 俊治が歩いてくる方角に、バーは一つしかない。重たい扉を開けて中へ入ると、若い青年の声が響いた。カウンターへ視線を投げかけた瞬間、博人は笑みを浮かべてしまうのを止めることができなかった。気づかれないように、堂々と俊治の真正面に座る。
 声を聞いたのは初めてだった。予想より、高くも低くもない。まさに完璧だと思い、興奮している自分を笑った。冷静に話しかけて、おすすめに自分好みのウィスキーを用意され、また興奮してしまい、必死に自分を抑えた。
 俊治は博人が見かける顔とはまったく別の表情だった。仕事中は仕事に徹しているようで、向けられる笑顔もしょせん営業用だということはすぐに分かる。
 帰り際、名刺を渡すと、俊治はアルファベットの社名を目で読んでいた。おそらく何の会社か、どんな仕事をしているか社名だけでは分からないだろう。だが、そのほうがいいと博人は思った。オフでも仕事の話をするのは不粋な気がした。

 俊治の働いているバーへ水曜に訪れるようになってから、博人はなるべく毎週水曜を空けるようにした。仕事も残業せずに済むように火曜までに片づけるか、持ち帰るようにした。
 特定の誰かに何度も会いに行くのは久しぶりだった。俊治にとってはただの客だが、博人は彼に会えることが嬉しかった。

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