vanish 番外編2/i | ナノ


vanish 番外編2/i

 自分も抱かれる側だからか、情事の後の雰囲気というのはすぐに分かる。まず腰がだるいため、歩き方がゆっくりになり、余韻が残っていれば、自然と顔に出る。そして、洋平の場合、白いうなじにいくつものキスマークがあった。おそらくトイレから出てきたのではなく、寝室から慌てて服を着てきたのだろう。バスルームで鏡を見てくる余裕がなかったらしい。
 俊治がシェーカーを振った後、さわやかな柑橘系の香りのするカクテルをリビングのソファに座っている洋平へ差し出した。
「ありがとうございます」
 礼儀正しく頭を下げた洋平は、さっそく一口飲んで、「おいしい」と笑みを見せる。俊治と洋平が近況を語っていると、博人と話しながら入ってきた総一郎がソファの背もたれ側から洋平のことを抱き締めた。振り返ろうとした洋平は当然そのくちびるを奪われる。
「そ、総一郎さん!」
 真っ赤になった洋平が咎めると、総一郎は悪びれる様子もなく、肩をすくめた。
「はねてる髪が可愛くて、つい。それより、やっぱり辛いのか? 立てないなら、俺が庭に連れてって……」
「いいですっ。もう、皆の前なんですよ、もう少し、人目を気にしてください」
 音量を落として話す洋平に対して、総一郎は普段通りの声音だった。毎回、同じようなやり取りのため、あまり気にはしていないが、洋平も苦労するな、と思った。携帯電話で写真を撮った音が聞こえ、顔を上げる。総一郎が洋平のうなじから後頭部にかけてを横から撮影していた。
「何してるんですか?」
 洋平は俊治に渡されたカクテルを一口飲んだ後、ソファから立ち上がる。
「いや、その髪のはね方が可愛くて、つい」
 洋平は呆れていたが、慎也は口を手で隠して笑った。
「肉、出していいかな?」
 博人が総一郎へ声をかけ、冷蔵庫から肉を取り出した。
「俺さ、この家に来るたびに、バカップル、新婚、っていう二つの単語が、こう、頭の中をぐるぐる回るんだよね」
 博人が小さな声で言い、慎也は軽く頷いた。
「でも、いいじゃないですか。愛情表現は人それぞれですから。それに家の中くらいしか、あんまりいちゃいちゃできないですよ」
 タッパーの中で特製のタレに浸されている肉を確認しながら、博人が溜息をつく。
「俊治君から聞いてるけど、店でもすごいらしいね。川崎のこと、ある意味、尊敬するよ。あ、俊治君、俺はノンアルコールにしてね」
 車を出してくれる博人は、家でいくらでも飲めるから、とこういう時にはアルコールを飲まない。庭へ荷物を運んでいた要司と戻ってきた俊治が、皆に何を飲むか聞いて回った。
「野菜、運ぼうか?」
 要司がトレイを持ってくれる。視線の先では総一郎に抱えられ、ウッドデッキから庭へ向かう洋平がいた。恥ずかしいからか、顔を伏せていたが、その腕はしっかりと総一郎の首へ回されている。
「……色々あるなぁ」
 独白すると、要司が首を傾げる。
「愛情表現のことです」
「あぁ」
 要司は納得したように頷き、トレイを左手へ持ちかえる。右手で慎也の髪をなでてから、左の頬にかすめるだけのキスをしてくれた。それから、左手へ指先を絡めて、手をつなぐ。
「愛してる」
 穏やかな笑みを浮かべて告げられた要司からの言葉に、慎也は同じ言葉を返した。


番外編1 そこから1(慎也視点)

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