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 学園の校舎内には食堂も含めて、いくつかの場所にパネルが設置されており、ニュース番組や学園のポータルサイトから配信される情報が流されている。先ほどの生徒達を追って、将一も駆け出す。
 嫌な予感しかなかったが、それは的中していた。パネルには明史が三人の男性と絡んでいる姿が映し出されている。学園内で普段見ている明史とはまったく異なる姿だった。自ら腰を振りながら、卑猥な言葉で行為をねだっているその様子に、皆、釘づけになっている。
 将一はポケットで震えるケータイに気づき、慌ててボタンを押した。
「明史はそっちか?」
 志音の声にはいら立ちとあせりがあった。
「うううん、今は一緒じゃない。探さなきゃ……」
 すでに通話は切れていた。図書館内のパネルは自習ができるものも含めて、すべてに映像が出ている。全教室と寮の部屋内でも同じものが流れていると考えるべきだろう。図書館内で唯一、冷静だったのは秋秀だ。彼はカウンターの向こうでパネルをいじり、図書館の中のパネルを強制停止させていく。
 将一はすぐに秋秀のそばへ走った。
「先輩、明史がいないんです。若宮が今、探してる」
「分かった。生徒会と風紀に連絡する。あと、こっちで映像、何とかするから、君も探しにいって」
「はい」
 将一が図書館から出ると、うしろから友達連中が、「俺、寮、見てくる!」、「俺は南側!」と声をかけてきた。
「ありがと!」
 将一はまっすぐ職員室へ向かった。カードを当てて、すぐに中へ入る。職員室内も騒然としていた。
「先生!」
 担任を見つけて、駆け寄る。
「明史がいないんです。寺井先輩が図書館の映像を停めてくれて、先生も、明史、探してください」
 言い終わらない間に、水川と湊が職員室を出た。担任はケータイを耳に当てながら、将一と一緒に廊下へ出る。
「つながらない……大友君が行きそうな場所は?」
「分かりません。寮も探してくれてます」
 担任が右へ曲がったため、将一は左へ曲がった。手分けして探すほうが効率がいい。毎日の行動を把握しているわけではないから、明史がいそうな場所をあたるしかないが、実際、図書館や購買以外に、彼がいそうな場所はなかった。いったん屋上まで上がり、暗証番号で鍵のかかっている扉が開くかどうか試してみる。
 事故が起きたことはないが、安全上の理由から屋上は立ち入り禁止だった。仮に暗証番号を知っている生徒達がいたとしても、寮の三階からは屋上が丸見えになる。もし、誰かいたら、寮を見にいった友達から連絡がくるはずだ。
 流れてくる汗を腕で拭い、将一はケータイを握り締めた。最悪の事態は、明史が追い詰められて自殺することではない。あの映像を見て、明史を見つけた誰かが、彼を追い詰めることだった。
 将一は階段を駆け下りて、レクリエーションルームを目指した。運動部よりも文化部が多いため、空き教室はほとんど埋まっている。今の時間に使われていない教室といえば、レクリエーションルームくらいしかない。二つあるうちの近いほうへ向かう。
 カードを当てて開いた扉の中をのぞくが、誰もいない。将一は両手を両ひざへ置いて、体を少し屈めた。もし、悪意のある誰かが、明史を彼自身の部屋へ連れ込んでいたら、と考える。そうなるともう、どこにいるのか分からない。
「もしもしっ」
「ショウ、今どこだ?」
 剛からの電話だった。将一がレクリエーションルームにいることを伝えると、剛は生徒会も全力で探していると教えてくれる。
「もし、誰かの部屋に連れてかれてたら、どうしよ……」
 将一が先ほど考えていたことを口にすると、剛は、「委員会の連中にも頼んで動いてもらってる」と慰めるように言った。
「とりあえず、職員室前に来れるか?」
「はい」
 電話を切り、職員室のある二階へ上がろうとすると、耳に笛の音が入ってくる。運動場や体育館で練習している、どこかの運動部の笛だった。


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