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spleen64/i

「先輩、からかわないでください」
 将一の言葉に剛が腕を緩めた。彼はケータイを右手に持ち、「あー」と肩を落とした。
「せっかく将一、見つけたのに生徒会、戻らないとダメだわ」
「俺、図書館で読書感想文の本、見てます」
「分かった」
 剛を見送った後、将一は友達とともに移動する。
「俺、手書き苦手なんだよね」
「分かる、分かる」
 友達の会話に将一は頷いた。
「でも、字がきれいだとカッコイイよ」
 将一も手書きは苦手だが、例えば招待状や誕生日カードを書く時は、やはり紙に手書きだと高級感があり、特別な感じがする。
 職員室前から、渡り廊下を通り図書館の二階へ入ると、図書委員長の寺井秋秀が慌てた様子で二階から一階へ続く階段を下りていく。何だろうと思い、先ほどまで秋秀が立っていた場所へ行くと、ガラス張りの窓から裏庭が見えた。
「あ」
 将一も急いで裏庭へ向かう。友達二人もうしろから追いかけてきた。あまり生徒が立ち入らない図書館裏には、明史と一組の明良達の姿があった。
 高等部から入学してきた明良は、唯一の一組入りをしている優秀な生徒だ。だが、将一は彼の傲慢な態度が好きになれなかった。父親の立場を利用して、生徒間にまで主従関係を強要するなんて、小学生ならまだしも、十六歳という年齢では恥ずかしい。
 将一は明良とは面識がなく、これまで遠目にしかその存在を確認していなかった。だが、今は違う。明良は志音に気があるらしく、何かにつけ明史に突っかかっていた。秋秀は明史をかばうように間へ立って、明良達を咎めている。
「大友、大丈夫?」
 将一が尋ねると、明史は頷いた。半袖シャツの上から薄手のニットベストを着ている明史は、前腕に擦り傷を負っていた。
「血が出てる」
 ハンカチを取り出して、左腕にそっと触れると、明史は小さな声で、「ありがとう」と言ってくれた。不安げに揺れた瞳を見て、将一はケータイを取り出す。
「若宮に連絡入れようか?」
 明史の濡れた瞳がこちらを見つめていた。だが、彼は頷かず、首を横に振る。
「大丈夫」
 思わず抱き締めてしまいそうになるほど、明史は弱々しく見えた。
「一人に対して七人で何をしてた?」
「何もしてません」
 秋秀の問いかけに明良が臆面もなく言いきる。
「明史はケガしてるが?」
「自分で転んだんです。そうだよね、大友」
 明史はただ視線を落としていた。明良がいらいらとした様子で、「大友!」と名前を呼ぶ。将一はその威圧的な呼びかたに腹が立った。
「上田、そんな大声出さなくてもいいだろ? だいたいこんなところで何してたんだよ?」
 大人しいと思われているらしく、友達が驚いた表情をしていた。周囲も少し目を見開いて、いきなり明良に負けない大声を出した将一を見ている。
「……君は誰?」
「青野将一。明史の友達で同室者」
 将一は明史の左手を握った。
「明史、保健室、行こう? 寺井先輩、ここ、任せていいですか?」
「あ、あぁ」
 将一は秋秀の返事を聞いてから、明史の手を引いた。彼の手は初夏の暑さにもかかわらず、冷たい。 


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