spleen63/i | ナノ


spleen63/i

 剛は家に帰っていた。本人から聞いた話ではないが、彼の家は老舗の旅館を経営している。将一はパネルの操作をしながら、剛の声を聞いていた。
「期末終わったら、どっか出かけないか?」
「いいですよ」
 ちょうどカレンダーを出していて、期末試験の後を目で追っていく。夏休みに入る前に、一度、家へ帰ろうと思っていたため、将一は即答した。
「和食と洋食ならどっちが好きだ?」
「えー、そうですね、今は和食の気分です」
「分かった。じゃあ、また月曜に」
「はい、失礼します」
 友達と外で遊ぶことが多い将一は、剛からの誘いに何も考えていなかった。
 初めて告白されたのは中等部二年の頃だ。将一は、まだ恋愛感情がどんなものか分からず、好意に感謝だけして、付き合うことはなかった。
 決して輪の中心にはならないが、将一は皆で騒ぐことが好きだった。だから、明史のように一人でいる生徒を見ると放っておけない。
 例えばその感情が偽善であっても、少しの自己嫌悪で他人を救えるならすごいことではないかと思う。

 明史は志音と付き合っているのかな、と購買で二人を見かけた時に思い至った。ミルクプリンとチョコプリンをカゴに入れた後、二人はスナック菓子のコーナーで足を止めた。
 袋菓子を手にして、何か尋ねた明史の頬を、志音が指先でなでる。くすぐったいのか、身をすくめた明史は頬を染めていた。
 志音はいつでもどこでも明史に触れている。まるで自分のものだと言いたげな態度で、志音は時おり、周囲を見ていた。その視線は絶対に明史へは向けられない。
 二人がうまくいくように願いながら、将一は図書館へ向かった。

 期末試験が終わると、夏休みが目前に迫っているため、校舎内は開放的な雰囲気になる。外出届を出し終えた将一は、水川が黒岩の胸ぐらをつかんでいる姿を見かけた。驚いて、思わず職員室に留まっていると、湊や他の教師達が間に入る。
 状況は分からない。水川が本気で怒っている姿に将一以外の生徒達も職員室から出ようとしなかった。
「ほらほら、君達は出てなさい」
 教師達に職員室から追い出されて、将一は小さく息を吐いた。黒岩は三年二組の担任であるにもかかわらず、今学期で辞職する。ほとんどの生徒達がその原因を知っていた。黒岩に責任があるのは当然だが、明史をよく思っていない連中は、まだ明史が誑かしたのだと噂していた。
 謹慎処分を受けた生徒達のうち、三人は別のクラスの生徒だが、残る三人は同じクラスの人間だった。今までのところ、明史に何か言ったり、何かしたりはしていない。将一は自分がいない時でも、周囲の友達に明史のことを気にかけて欲しいと頼んでいた。
「将一」
 七組の友達が手を上げる。
「何してたんだ?」
「外出届、出してた。大友、知らない?」
 明史はだいたい一人で行動している。水川に胸ぐらをつかまれて、不敵に笑っていた黒岩を思い出して、不安な気持ちが増した。
「図書館のほう、行ってたと思うけど」
「おまえ、ほんと、最近、明史か剛先輩のことしか考えてないだろ?」
 苦笑されて、将一は首を横に振る。
「そんなことないよ。ただ、大友のことは心配だし、先輩のことは」
「好きなんだよな?」
「いや、好きっていうか、って、え?」
 うしろから抱き締められて、振り返ろうとすると、剛がもう一度、言った。
「好きなんだろ?」
 剛が将一の頭の上に顎を置いて話をする。振り返ることができないため、目の前の友達の反応を見ながら、将一は溜息をつくしかなかった。


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