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spleen61 剛×将一/i

 夏休みに入る前までの期間限定マンゴーアイスを口に入れながら、将一は同じようにアイスを食べている志音と明史を見た。三日ほど前から明史の雰囲気が少し変わった。
 二人の間に何があったかは分からないが、いつもうつむきがちな明史が顔を上げている姿を見れば、いい方向に変わったのだと思う。
 一部からは黒岩からすぐに志音へ乗り替えた、と反感を買っているが、今のところ面と向かって言える生徒はいない。
 食堂で過ごす昼休みは、時間が合えば、自然と同じテーブルで食べるようになった。明史はいつも出入口のところにいたが、志音に引っ張られて、生徒会や委員会メンバーが座るテーブル周辺にいる。
 将一もこれまではクラスメートや同級生達と少し離れた席にいた。だが、最近はもっぱら生徒会執行部の人間が座るテーブルの横に座っている。
「ショウ、こっちも見ろ」
 目の前の明史を見ていると、右隣にいた剛に頬を挟まれた。
「妬けるなぁ、若宮志音が好きとか言わないでくれよ」
 副会長の剛は、階段から落ちてしまった時に世話になって以来、親しくしている。最初の時から、接触が多いが、将一の友達もたいてい接触してくることが多いため、気にならない。
「若宮のことは見てないです。大友が何か柔らかい雰囲気になってよかったと考えてました」
 剛へ視線を移すと、彼はにっこりと笑った。次期生徒会長と言われるだけあり、笑顔にも隙がない。誰もが見惚れてしまう顔だ。
「ショウは本当にいい子だな」
 親がしてくれたように、頭をなでられる。将一が八組だと知り、剛は夕食の後、勉強を教えてくれる。彼も生徒会で忙しいだろうに、断っても必ず部屋へ来た。
 剛は面倒見がいい先輩なんだ、と思う。最近、付き合いが悪いと、友達からは怒られるものの、先輩相手なら仕方ないとも言われた。
「剛、今日は何もないから来なくていいよ」
 隣のテーブルでラーメンを食べていた生徒会長の光穂が告げる。
「マジですか? じゃあ、ショウの部屋、行こう。今日は六時間めまでか?」
「はい」
 上機嫌の剛を見つめた後、光穂がこちらを見ていることに気づいた。彼はかすかに笑い、今度は明史のほうへ視線を移していく。
 中等部から入学した将一は、彼らのそういう視線をまぶしく感じる。初等部から上がってきた生徒達の間には、何となく深い絆のようなものがある気がした。
 もちろん、彼らは外部生達と打ち解けるのも早い。将一が知る限り、いまだに友達がいない中等部からの外部生はいないはずだ。
 明史とは中等部三年の時に同じクラスになった。それまでは選択授業が一緒になる程度で、あまり話したことはない。
 周囲から色々な噂を聞かされた。だが、実際に今年から同じ部屋になり、接触する機会が増えると、噂通りの人間ではないと分かった。
 共有スペースの掃除は週ごとに行っているが、中等部の三年間、同室者との間で、その決まり事が守られることはなかった。将一自身がきれい好きということもあり、何週も連続して掃除することは苦ではなかった。
 だが、明史は決まりを必ず守ってくれた。体調が芳しくない時には、何も言わずに掃除をしてくれた。彼の真面目で、押しつけがましくない態度は将一にとっては好ましく、もし来年も八組なら、同室希望を出そうと思っていた。
 明史は時おり、悲愴な表情になり、結ばれたくちびるからいつ嗚咽が漏れるのだろうと、将一を苦しくさせる。
 明史は彼のことを見守る視線に気づいているだろうか。光穂だけではない。周囲の視線が少しだけ顔を上げるようになった明史へと注がれている。
 このまま何事もなく夏休みに入りたい。右の太股にある剛の手を見つめて、将一はそんなことを考えていた。


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