spleen55/i | ナノ


spleen55/i

 ナイフは明史の肌も傷つけていく。叫ぶとドーナツ型のギャグを施された。媚薬のせいか、痛みを感じながらも、ペニスは勃起していく。たち上がっている乳首にシャツの上からナイフが当たった。
 邪魔だから切り落としていいんじゃない、と言う男の声を聞いて、明史は体を動かす。冗談だ、笑われた時には、すでにパニックになっていて、ゴム製の手枷を引きちぎろうとしていた。
「ンっ、ふ、うぐっ」
 手こずらせるな、と腹を殴られた。涙が大量に流れる。何か納得できる理由がなければ、耐えられそうになかった。できが悪いから、愛されない。隙があるから、不本意なことにも頷くしかない。望まれて生まれたわけではないから、理不尽なことを要求されても当然だ。
 ベンチに座り、仲睦まじく手を取り合った直と航也の姿が見えた。日溜まりにほほ笑みを浮かべている。あんなふうにはなれない。自分はずっと一人で日陰にいるしかない。
「っ、んっん、ぅう」
 力を抜けと胸を叩かれた。日溜まりが赤く染まっていく。
「それ、貸して。こんなきついんじゃ、こっちが萎える」
 男がペニスの代わりに、張り型を突き刺す。潤滑ジェルもローションもない。明史のペニスからは先走りがだらだらと流れた。
「痛いのが好きなんだろ、変態」
 痛みを感じているのに、ペニスは勃起している。自分の体ではないみたいだった。乱暴に出し入れされる張り型が前立腺に当たると、明史のペニスは精を吐いた。気を失っていたい。大友明史ではない人間になりたい。遠く笑い声が聞こえる。男達に見下ろされながら、明史は泣いた。
 痛みと絶頂の間で、笑みを浮かべた志音の腕を思い出す。今さら黒岩の車の例え話を理解した。こんな汚れた中古車を選ぶなら、明史だって新車を買う。傷一つないきれいなものが欲しい。
 拘束をほどかれ、うつ伏せにされた。頭を押さえつけられ、うしろからも犯される。明史の体は、夜まで徹底的に痛めつけられた。これまでは黒岩の相手だけだったが、三人の男達は容赦なく、明史の精神も追い詰めていた。
 まるで男達の放った精液で、体が固まったように動かない状態だった。悪夢のような行為の間、明史は媚薬のせいで気を失うことすらできなかった。
 扉が開き、黒岩が入ってくる。明史は腫れた目で、彼を見た。口の中からは唾液とともに放たれた精があふれた。
「約束通り、撮影した分は渡してやるよ。だが、二年間の保険として、さっきまでの乱交を撮ってある。若宮と付き合ってみろ、すぐにウェブで公開するからな。世界中に若宮財閥三男のパートナーが淫乱だと知らしめる証拠だ」
 黒に黒を重ねるように、光が見えなかった。喉の奥に詰まった精液をせき込みながら吐き出す。ギャグを外された後、命じられるままに淫らな言葉を発した。自分の存在は他人に迷惑をかけることしかできない。
「そのベッドも、もう使えないな。おまえが漏らしたシーンもばっちり撮ってある」
 黒岩が笑いながら、明史の鞄からケータイを取り出した。
「若宮を呼ぼうか? スクラップ寸前の車をどう思うか、見てみたい」
 明史は濡れた冷たいシーツの上で、新たな涙を流した。乾いたくちびるで、「やめてください」と紡ぐ。
「シャワーを浴びてこい。最後に優しく抱いてやろう」
 明史はこれ以上、受け入れられないとは言えなかった。
「尻の穴、押さえていけ」
 バスルームの鏡には赤い線傷のある体が映った。腹や肩にはアザがある。足の間を精液と血が流れていった。浴室のタイルの上で弾かれ、流れる水滴を見つめながら、明史は、「あいされてる」とつぶやいた。頭からシャワーを浴び、「愛されてる」と言葉にし続けた。
 ひりひりする切傷を無視して、明史はリビングのソファに座り、先ほど撮影されたばかりの映像を見ている黒岩の前に立った。
「せんせい、おれのこと、すき?」
 黒岩は少し音声を落とすと、明史を見上げて冷笑を浮かべた。
「統史は高嶺の花だった。でき損ないのおまえなら、落としやすいと思っただけだ」
 明史は前を寛げた黒岩の足の間へ顔を埋めた。ひずみが広がっていく。もう前を見て、歩くことができないと思った。


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