spleen43/i | ナノ


spleen43/i

「明日、関係者から事情を聞くって言ってた」
「……うん」
 ミニハンバーグを一口サイズにして、口へ運ぶ。
「青野は、おまえに突き落とされてないって先生達に言った」
「え? でも、俺」
 授業参観の話をされて、明史はいらついていた。中等部から入学している将一の母親は、今年も来ると言われて、気づいた時には手で押していた。
「俺、青野のこと、落とした……」
 すでに食べ終わった志音が、残りのタマゴスープを飲み干す。
「本人は違うって言ってるから、違うだろうし、もし、そうだとしても、おまえの行動に何か意味があったとしたなら、それは正当だって俺は主張する」
 どんな時でも自分の味方だと言う志音の言葉に、明史は彼を見つめた。ソファから下りた彼は、ラグの上にあぐらをかき、明史の左頬に触れる。
「きれいな顔に傷つけやがって」
 明史はそっとその手を払う。
「俺はきれいじゃない」 
 払っても、志音は引かなかった。また手を上げて、指先で頬をなでてくる。茶色い瞳が動く。きれいなのは彼のほうだ。少しだけ垂れ下がった大きな目に合う高い鼻や厚いくちびるは、男らしい美しさで満ちていた。
「明史」
 うつむいていた顔を上げると、志音がじっとこちらを見ている。
「おまえの恋人って、黒岩先生なのか?」
 中間試験の後には、全校生徒の知るところになるだろうと思った。明史は薄く笑う。
「そうだよ。だから、そう言ったはずだけど、俺の恋人は大人で力もあるって」
 茶色の瞳はまだこちらを射ている。明史は無感動に、その双眸を見つめた。あんなふうに振ったのに、まだこうして心配してくれるなんて、志音はそうとういい奴だと思った。
「本当に好きなのか?」
 明史は食事を再開する。
「好きだよ」
 大きな溜息をついた志音は、一度部屋を出て、シュークリームを取ってきた。彼はクローゼットも開けて、奥からお菓子の入った袋を取り出す。そして、先ほどと同じようにラグの上に座り、明史に近づいた。
「俺、おまえのこと好きだ」
 シュークリームを食べながらの告白に、明史は驚いて、箸の間からマカロニを落とした。
「な、何、言ってんの?」
 カスタードと生クリームの甘いにおいがする。志音は指についたカスタードをなめながら、艶のある笑みを浮かべた。
「明史のこと、好きだ」
 明史は口を半開きにした状態で、ぼんやりと志音を見つめた。彼の顔が近づき、音を立てるようなキスをしてくる。
「マヨネーズの味がする」
 胸がぎゅっと痛んだ。乳首や手当てをされた太股の間やアナルがうずく。欲情にまみれ過ぎた明史は、些細な刺激でも性的欲求につなげることができるようになっていた。こんなふうに、ふかふかしたラグの上で、甘いにおいに満たされながら、優しいキスとまっすぐな告白を受ける権利はない。
「……皆の前で叩いたこと、悪かったと思ってる」
 明史は箸を置き、逃げるように立ち上がる。
「でも、だからって、俺のこと、からかって、楽しい? 嫌われ者の風紀委員を落とせって言われた? 暇つぶし程度にはなるからって?」
 叫びながら、明史は泣いていた。自分はまた理不尽に志音を責めていると思った。彼を落とそうとしたのは自分だ。黒岩に負けて一度は頷いた。最低なのは自分のほうだ。


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