spleen42/i | ナノ


spleen42/i

 ゆらゆらと揺れる感覚に、自分を抱いている人間を見上げた。志音がカードを当てて扉を開く。
「吐き気とかないか?」
 首を横に振る。ここは志音の部屋だ。ベッドに座らされ、志音の姿を目で追う。
「メシ、買ってくる」
 冷えたアイスティーを差し出されて受け取ると、志音は、「ここにいろ」と言って、明史の髪に指先を絡めた。保健室で倒れ込んで以降の記憶がない。
 明史はアイスティーを一口飲んでから、ベッドへ横になった。自分の部屋に戻れば、将一と会うことになる。彼の具合はどうだったのだろう。
 黒岩のことだけではなく、今回の件が両親の耳に入るのは間違いない。涙でシーツを汚してはいけないと思い、明史はベッドに座り直した。謹慎か停学か、どちらかになるだろう。停学の場合、寮も出なければならない。家に帰るのは億劫だった。今回の出来事だけではなく、黒岩との関係も伝えると水川は言った。そうなると、家には置いてもらえないかもしれない。
 もしも、家に帰ることができなかったら、黒岩の家へ行くのだろうか。自分のことなのに、何一つ決められない。明史は部屋を見回す。造りや備え付けの家具は同じだ。初めて来た時は気づかなかったが、志音は毛の長いラグを敷き、ソファを置いていた。何となく靴を脱ぎ、オレンジ色のラグを踏む。ふわふわしていて、志音のイメージと合わず、笑みがこぼれた。
 明史はソファに座り、隅にあるクッションを抱き締める。志音の香水と同じ香りが漂っている。クローゼットのそばにアイロン台があり、スプレー式のリネンウォーターがあった。意外とまめな性格だと思いながら、クッションを戻してリネンウォーターの入ったボトルを手にした。英語ではないアルファベットのつづりだ。
 扉が開き、志音が入ってくる。ソファの前、ラグの上にあるガラステーブルは、購買のスタミナ弁当を二つ置いたら、もう置き場所がなくなるほど小さい。
「気に入ったか?」
 志音の手がボトルをつかみ、キャップを外す。彼は鼻へ近づけてから、明史の鼻へもボトルの口を寄せた。さわやかな甘い香りがする。
「弁当、温めてもらった。タマゴスープ、用意するから、先、食ってろ」
 志音はラグの上に置いていた袋をつかんで出ていく。その袋にはインスタントスープの他にシュークリームが入っていた。
 先に食べろと言われても、明史はどうして自分がここにいるのか、将一の具合はどうなのか気になり、志音が戻るのを待った。
「食べろよ。最近、食堂にも来てなかっただろ?」
 志音がタマゴスープを両手に持って入ってきた。明史はガラステーブルから弁当の入った袋を持ち上げる。空いた場所へスープを置いた彼は、明史の手から弁当を取った。
「いただきます」
 志音はソファに座り、ひざの上に弁当を置いた。明史もラグに座り、ガラステーブルへ弁当を置く。
「若宮」
「ん?」
 大きく口を開き、トンカツを頬張る志音に、明史は袋から弁当を出しながら聞いた。
「青野の傷の具合、知ってる?」
「あぁ、青野はたんこぶだけで済んだ。里塚先生、おまえのほうが重症だって言ってた」
 スタミナ弁当は購買で人気の弁当だ。トンカツの他にミニハンバーグとカラアゲがあり、その隣にはマカロニサラダが入っていた。白飯の上にはノリが敷かれ、その下は味のついたジャコがあった。
 おいしそうに食べる志音を見て、明史は箸を取り出す。


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