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spleen41 志音×明史/i

 将一のことを落とすつもりはなかった。だが、手で押してしまったのは事実だ。小さく叫んで背中から落ちていく彼を見て、明史は助けるために手を伸ばした。彼が後頭部を床に打ちつけた。
 階段を降りる前に、クラスメート達に腕をつかまれた。同じ目にあわせてやる、と言われて、階段から落とされた時、明史は一瞬だけ、志音の姿を目で探した。寮の窓から落とされそうだった時は助けれてくれた。その彼の好意を無駄にして、公衆の面前で叩いたにもかかわらず、彼はいまだに明史に話しかけてくる。
 将一もそうだ。他のクラスメートや同級生達が絡んでいるところを見つけると、すぐに声をかけにくる。委員会を通して世話になっている上級生達も、明史のことを気にかけていた。
 明史は皆の気づかいに感謝している。だが、今はもう引き返すことができないほど、遠くまできていた。週末は毎週、黒岩の部屋で過ごし、脅されて、様々な要求を飲むしかないという悪循環に陥っていた。
 あの撮影された画像や動画をばらまかれたら、明史はきっと生きていけない。あと二年だけの話だ。卒業する時、撮影した分は処分すると黒岩は言った。それが嘘であったとしても、明史はそこにすがるしかない。
 目を覚ますと、明史はベッドに寝かされていた。天井とカーテンを見て、保健室だと分かる。カーテンの向こうから里塚の声が聞こえてくる。
「それじゃあ、若宮君は大友君とは付き合ってないってこと?」
「はい。まだ付き合ってはいません」
 志音の低い声に、明史は聞き耳を立てる。
「明史は歳上の人と付き合ってると言ってました。里塚先生、どうして俺に、付き合ってるかどうか確認したんですか?」
「あー、湊先生、悪いんですが、ちょっとだけ、志音と外に出てもらっていいですか?」
 水川の言葉に湊がこたえる。扉が開く音がした後、水川が里塚に話を始めた。
「で、里塚先生、何で志音に確認を?」
「……複数の噛み傷が太股のつけ根にありました。キスマークなんて優しいものじゃなくて、かなり痛かっただろうと思います。若宮君はこの間も大友君を抱えてきたし、てっきり二人はそういう関係なんだと」
 明史は起き上がり、ベルトを外した。ズボンの間へ手を滑らせると、包帯の感触がある。そこを噛んだのは黒岩だった。いきたい、と言ったら、そこを思いきり噛まれた。そのたびに射精したいという欲望は萎えた。志音を振った話は黒岩にも届いており、約束を破った罰として、その行為を受けた。
「明史の相手は……」
 明史はベッドから下りて、カーテンを開けた。
「先生、簡単にばらさないでください」
 笑みを浮かべて水川を見た。明史は里塚へも笑いかける。
「でも、里塚先生ならいいです。俺の恋人、黒岩先生なんです。これは先生に愛されてる証だから、大丈夫です」
 明るい声で言った。
「俺と黒岩先生の仲、見守ってもらえませんか?」
 水川も里塚も困惑していた。
「明史、前も言ったけど、学園内での淫らな行為がどうのって言ってるんじゃない。黒岩先生はたとえ学園外であっても、まだ未成年のおまえにそういう行為をするべきじゃないんだ。このことは、校長にも理事長にも話す。もちろん、ご両親にもだ」
 水川の言葉はまるで死刑宣告のようだった。明史は全身から血を奪われるような感覚に、その場へ倒れ込む。
「大友君?」
 里塚が大きく口を開いて、何か言っている。明史は口の動きを見て、同じ言葉を繰り返す。
「だ、だい……じょ、うぶ」
 兄宛のメールを作成する時の書き出しは、いつも、「俺は大丈夫です」だった。


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