spleen33/i | ナノ


spleen33/i

「創太、志音が明史を保健室へ運んだから、様子見てきてくれる?」
 光穂に促されて、創太は階段を降りた。五組側からのほうが保健室に近いため、志音達が先に到着していた。里塚不在の場合はカードを当てても扉は開かない。
 志音は気を失っている明史を横抱きして、大事そうにその髪へ鼻を寄せていた。見ているほうが恥ずかしくなる。二人が付き合っていたとは知らなかった。以前、振られたという噂話を聞いたが、あれは嘘だったのかと納得する。
「もうすぐ里塚先生、来るよ」
 創太が近づくと、志音は一瞬警戒した。だが、彼の腕の中で明史が動き、彼はそちらへ神経を集中させた。
「ごめん、すぐ開ける……大友君?」
 里塚は中へ入り、剛に将一をベッドへ寝かせるように指示を出した。同時に志音の腕の中をのぞいた。明史は顔を殴られたのか、赤紫になった頬と乾いた血のついたくちびるが痛々しい。
 ベッドは四台あり、将一の寝かされたベッドの隣へ明史が寝かされた。
「この感じだと大友君のほうが重症かも。シャツを脱がせるから、手伝って。えーと、倉本君、保健委員だったんだね?」
「あ、はい。中等部で、ですけど」
「じゃあ、消毒液とガーゼと包帯と湿布の準備をお願いしていい? それと、タオルに氷水」
 創太は返事をして準備を始める。
「先生、青野が起きそう」
 剛の言葉に、里塚が振り返った。将一がまぶたを動かして目を開ける。
「青野君、大丈夫? 痛いところは?」
 将一はすぐに理解したらしく、たんこぶができた頭部を押さえながら、起き上がる。
「いてて、全然、大丈夫です。あ、大友……」
 ベッドから下りようとした将一を、剛がすぐに支える。
「あ、すみません」
 将一は手を借りながら、明史が眠っているベッドへ近寄った。
「吐き気やめまいはない?」
「はい、平気です。俺……階段の真ん中あたりから落ちただけです。うまく受け身が取れなくて、頭、ぶつけちゃって」
 将一の話を背に、創太は湿布を取り出した。
「おまえが落ちたのか、明史が突き落としのか、どっちだ?」
 志音の低い声に将一が体を強張らせる。
「おい、青野のこと怖がらせるな」
 剛がそっと将一の肩を抱いた。
「あ、あの、俺がよけいなこと言ったからだと思います。大友と話すきっかけを作ろうとして、授業参観の話を振ったんです。そしたら、怒った、というか、何か取り乱したみたいで、いきなり、押されて……でも、大友は落とすつもりはなかったと思います。俺が階段、中途半端に足を離しちゃって……」
 制服のシャツは淡いブルーで、胸元のポケットに学章が刺しゅうされている。その糸の色で学年が判断できる。シャツのボタンを外して、下に着てある薄手のTシャツを胸元まで上げた里塚が、すぐにTシャツを下ろした。
「……大友君はその後、階段から落ちたのかな?」
 一瞬、見えた白い肌の上にあった傷は、暴行を受けてできた傷だろう。将一達が首を傾げている間、創太は志音を見つめた。おそらく、志音も間に合わなかったに違いない。かすかに拳を震わせている彼から視線を外して、創太は里塚に告げる。
「水川先生達に一年生が六人くらい、怒られてました。青野が落ちた後、五組横の階段へ明史を連れてって、暴行したみたいです」
 将一は悲痛な表情を見せ、志音は扉へ向かった。
「若宮」
 創太は慌ててその背中を追いかける。
「明史が目覚めた時、いなかったら寂しがるよ。あっちには先生達も生徒会も風紀委員もいる。若宮は明史のそばにいてあげなよ」
 背の高い志音から見下ろされ、威圧感に少しずつ視線を落とすと、彼は小さく息を吐いた。そして、明史が寝かされているベッドへ戻っていく。


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