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spleen30/i

 火曜の朝、HRが始まる前に直をつかまえた。光穂は廊下へ出て、書記と総務から聞いた話を始める。生徒会執行部に属する生徒達は三組までの生徒が多く、八組の明史とは教室が離れ過ぎていて、日常的に接点がない。
 光穂が得られた情報も噂話に色をつけた程度だった。秋秀から聞いていた図書館裏の話も告げて、引き続き、できる範囲で明史のことを気にしておくと伝える。
「悪いな。おまえも忙しいのに」
 直の言葉に光穂は首を横に振る。
「こういうことも生徒会の役割だと思うし、それに、明史は大事な後輩だから」
 担任がやって来たため、二人は教室へ戻った。光穂は秋秀の座っている窓際の席を見る。彼は視線を上げ、こちらを見返してほほ笑んだ。
 来週に迫っている中間試験のための問題がディスプレイに映し出される。教師の説明を聞きながら、光穂は目の前の問題に集中した。
 秋秀は国立図書館で司書として働く夢を持っており、大学は図書館学のある国立へ進む予定だ。光穂は同じ大学へ進みたいと考えていたが、秋秀の行こうとしている大学はレベルこそ最高峰と言われているものの文系に強く、理系学部で学びたい光穂には物足りない。
 父親からは彼の卒業した有名私立大学へ行けと言われている。その私立大学は秋秀が受験する予定の国立大学と同じ市内にあるため、光穂としては父親のすすめる大学へ行き、秋秀と暮らしたいと思っている。
 将来のことを考えながら、秋秀とともに食堂に入った。パネルに表示されている日替わり定食を眺める。
「あ、明史だ」
 秋秀の声に振り返ると、明史が出入口から歩いてくる。少し伸びた前髪が目の端にかかり、表情を隠していた。
「明史」
 パネルの前に立ち止まった明史に話しかけると、彼は少し顔を上げる。
「何、食べる?」
 顔色の悪い明史は、光穂からの質問にこたえず、列のほうへ並んだ。諦めずに彼のうしろについて、「一緒に食べないか?」と聞いてみる。サラダだけをトレイに乗せて、彼は会計を済ませると出入口に近い場所へ座った。
「光穂、行こう」
 定食を乗せたトレイを持った秋秀が、視線で明史の座った場所を指す。
「うん」
 明史の前の席に座ると、彼はびくりと体を強張らせた後、まだ二、三口しか食べていないのに立ち上がった。
「明史っ」
 明史はトレイ返却口から戻り、そのまま光穂達の前を素通りして出ていく。光穂は何もできない自分を情けなく思いながら、秋秀の手を握った。
「すぐにどうこうできる問題じゃない」
 秋秀の言う通りだ。光穂は着席して、トレイの上にある昼食を食べ始める。
「あれ? 光穂達、こんなところで珍しいね?」
 直と航也が食堂に入るなり、こちらに気づいた。
「今、明史に振られたところ」
 光穂の言葉に直が小さく息を吐く。
「あいつ、人付き合い苦手そうだからな」
 学年が異なれば、昼休みか放課後くらいしか接点がない。光穂は放課後、風紀委員室へ寄ると約束した。

 先に生徒会の仕事をこなしていた光穂は、授業参観での生徒玄関の解放について、という湊から受信したメールを読んでいた。駆けてくる足音に視線を上げると、総務の一年生が、「光穂先輩!」と扉を開けた瞬間に叫んだ。
「どうしたの?」
 彼は息を乱しながら、「明史が」と言った。
「明史が、階段から、クラスメートを突き落としてっ、来てください!」
 光穂はすぐに廊下へ出た。達義も一緒に来る。何があったのか分からず、光穂の胸は不安でいっぱいだった。


29 31フェリクス×創太

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