spleen28/i | ナノ


spleen28/i

 体は温かいのに指先が冷たいなんて、秋秀は末端冷え症なのではないか、と光穂は思った。目を開くと自分のベッドにいた。冷たい指先が頬をなでている。
「あきひで?」
 秋秀はかすかに首を傾げた。
「航也に開けてもらった。今日は直のとこに泊まるって」
 光穂が起き上がると、秋秀はベッドに腰かけた。
「どんな夢? 泣きながら、末端冷え症って言ってたけど」
 面白かったらしく、秋秀は笑う。
「六年くらい前の夢。秋秀が初めて中等部の図書委員室で寝かせてくれた」
「あぁ」
「秋秀の、指先が冷たくて……」
 また涙があふれる。航也が光穂の思いに気づかず、無意識に傷つけたように、光穂もまた同じように秋秀を傷つけていた。
 あの日から秋秀と思いを通じ合わせるようになるまで、一年以上の時間が必要だった。途中でだめにならなかったのは、秋秀が根気強く、光穂の気持ちが落ち着くのを待ってくれたからだ。
「新陳代謝が悪いだけだ。運動すれば、すぐあったかくなる」
 誘う目で言われて、光穂はシャワーを浴びるために立ち上がった。すぐに汗をかくことは分かっているから、体だけ洗い、準備を済ませる。航也のことを好きだった時は、彼を抱くことを考えていた。直の時は抱かれるほうでもいいと思った。
 秋秀と結ばれたのは十五歳の時だ。あの頃はまだ今のように大きな身長差がなく、秋秀は光穂を押し倒した後、どうしても受け入れる側が嫌なら、彼が受け入れると言った。光穂は洗面台の鏡に映った自分を見て、思わず笑う。
 もしもあの時、秋秀を抱いていたら、と想像するとおかしかった。自分より弱い相手は守りたいと思うが、自分より強い相手を見ると守って欲しいと思ってしまう。中途半端に計算して、うまく渡りきろうとしている自分が、昔は嫌だった。
 だが、秋秀が居場所を作ってくれたおかげで、光穂は深呼吸ができるようになった。裸のまま部屋へ戻ると、眼鏡を外した秋秀がベッドに転がり、ケータイをいじっていた。
「お待たせー」
 光穂は笑顔で秋秀の腹の上へまたがる。ちょうどペニスの下へ当たる秋秀のペニスが少しずつ大きくなっていく。
「もうあったまってるとこあるね?」
 小さく笑うと、秋秀が勢いよく体を起こし、口づけてくる。噛みつくようなキスにこたえながら、光穂は彼が脱衣していくのを手伝った。ふだん穏やかな彼が、この時ばかりは激しくなる。ある程度、解していたアナルはすんなりと彼の指を二本くわえた。
「っん、あき、も……きて」
 光穂は秋秀の肩へ足をかけた。彼の熱が光穂の熱と混じり合う。握り合った手に視線を移した。彼の指先は確かに温かくなっている。
「あ、アァ、き、あきっ、いっ、ア」
 光穂、と名前を呼ばれながら、体を揺さぶられる。優しく光る瞳が自分を奪うように強く濡れているのを見て、光穂は愛されていると感じた。上半身を少し浮かせてキスをねだれば、秋秀はすぐにキスをくれる。
 一週間ほど体を重ねていなかったため、光穂は秋秀より早く射精した。射精した後、何度か前立腺を突かれ、我慢できずに大きな声を漏らしたが、幸い、隣人はいない。汗で光る肌を重ねて、秋秀が耳元で荒々しく息を吐いた。
 行為の後は狭いベッドで仰向けになり、しばらくぼんやりしていることが多い。光穂は秋秀の右腕に頭を置いた。
「今日はお疲れさまだったな」
「うん」
 図書館での催しが無事に終わった。週明けには集まった寄付金を会計達が計算してくれるだろう。
「あいつ、誰だっけ? 一年の外部生」
「上田君?」
「そう。現場、収めてくれてありがとう。見えてたんだけど、ちょうど読書習慣の説明中で抜けられなかった」
 右腕を光穂に貸したまま、秋秀は肘をついて左頬へキスをくれた。


27 29

main
top


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -