spleen27/i | ナノ


spleen27/i

 航也から直と付き合うことになったと聞いたのは、雨上がりの放課後だった。中等部の校舎裏でひっそりと吐き出された言葉に、光穂は思わず眉をひそめた。
 おっとりしている航也は光穂の気持ちに気づくことなく、別の誰かに恋して、あげくに幸せそうに笑いながら付き合うと言う。光穂は拳を握り締めて親友の恋の成就に笑顔を作った。
 航也が直を意識していることは、ずいぶん前から気づいていた。中等部に上がってから成績順でクラス分けされ、航也も直も光穂と同じ一組になった。
 直は航也が大事で仕方ないといった様子で、航也も直に夢中だった。穏やかな二人がそろうと、周囲も自然と和む。邪魔しては悪いから、と光穂が単独で行動しようとすれば、二人して引き留めて、よけいにみじめな気分になった。
 長年の場所を取られてしまい、途方に暮れている光穂の気持ちを察した直は、航也以上に気づかいを見せてくれた。そのうち、光穂は航也ではなく直を目で追いかけるようになった。
「光穂」
 生徒会室から出たところで、図書委員の秋秀に声をかけられた。彼も中等部に上がってから同じクラスになった。初等部の時は二年生のクラスが同じだった。秋秀は初等部から首位を守り続けている。いつも本を読んでいて、まっすぐに表情を見ることはなかった。
 だが、話しかければ、秋秀はいつでも笑みを見せて、光穂の問いかけにこたえてくれた。彼の持つ雰囲気のせいか、あまり彼に話しかける生徒はなく、初等部の時から彼と周囲をつなぐのは光穂の役割だった。
「秋秀か、何? 生徒会室に用事?」
 推薦で書記に任命されていた光穂は、出てきたばかりの扉の前に戻る。
「いや、おまえに会いにきた」
 眼鏡のレンズ越しにこちらを見る秋秀の表情には見覚えがある。初等部高学年に上がってから何度か受けたことのある視線だ。この後は告白されるに違いない。
 自惚れではなく淡々と考えていると、秋秀は小さく笑い、いきなり腕を引いた。そして、彼の腕の中で光穂のことを抱き締めると、「寝よっか?」と言った。
「はぁ?」
 告白もなく、いきなり寝るとは何事かと思っている間に、秋秀は光穂を引っ張って歩き出す。
「待て、ストップ、ちょっと、なぁって!」
 中等部の図書館は電子書籍のみ扱っている。規模も高等部に比べると小さい。秋秀に図書館まで引っ張られ、中にある図書委員室でようやく解放された。
「秋秀、何だよ、いったい? びっくりしたよ?」
 図書委員室は人が出払っており、二人だけしかいない。長テーブルの上にはパネルと紙の資料が散らかった状態で放置されていた。生徒会室と似たようなものだ。
 秋秀は柔らかい笑みを浮かべると、そっと光穂の頭をなでた。初等部の頃は意識していなかった身長差が、ほんの少し大きくなった気がする。
「眠れなくなってるのか?」
 その問いに光穂は目を見開く。最近は色々とあり過ぎた。特に航也と直のことは考えると眠れなくなる。
 秋秀の冷たい指先が目元をなでていく。
「直は航也のものだ」
 静かに告げられた言葉に、光穂はかっとなり、手を払う。
「航也は直のものだ」
「分かってる!」
 光穂は秋秀を睨みつけた。だが、秋秀は柔らかな笑みを浮かべ、先ほどのように強引に抱き締めてきた。
「秋秀!」
 秋秀は奥にあるソファまで、光穂を抱き締めたまま歩いていった。ソファに腰かけた彼は、光穂の体を横抱きにする。
「な、何して……」
 腕を突っ張り、秋秀の胸を押しても、彼は少しも解放してくれない。
「航也のこと、バカにできないな。おまえだってたいがい鈍い。ほら、目、閉じて」
 光穂はまだ言い返したいと思ったが、航也のことを引き合いに出されたため、くちびるを結んだ。航也は親友であると同時に光穂のコンプレックスを意識させる相手でもある。
 目を閉じると、秋秀の手が頭をなで始める。光穂はいつの間にか眠っていた。


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