spleen22/i | ナノ


spleen22/i

 それほど突出した存在の志音を振るとは、明史も大したものだ、と光穂は思った。ただ、明史くらいきれいだと、相手を選べる立場にあるだろうとも思えてくる。
 志音は確かにいい男だが、あまりにも完璧過ぎると疲れる部分もあるに違いない。その点、秋秀は完璧なのに外し方を分かっていて、光穂は楽な気持ちになれる。
「おまえ、また秋秀のこと考えてるな?」
「え? そんなことないよ」
 光穂は慌てて首を横に振る。
「俺が懸念してるのは、明史が孤立することだ」
 孤立という言葉の中に含まれた問題に気づき、光穂は小さく頷く。これだけ生徒がいれば、小さな諍いではなく、常習的な暴行が起こり得る。光穂はまだ見たことはなかったが、長年、風紀委員会に関わってきた直は、実際にいじめはあると断言していた。
「水川先生にも相談してたんだけど、明史の場合、黒岩先生とも絡んでて、ちょっと複雑なんだよ」
「黒岩先生?」
「そ。まぁ、先生のことは先生に任せるとして、光穂、頼みがある」
 直の頼みはとても簡単なことだった。生徒会執行部に所属している書記と総務の一年に、それとなく明史のことを聞いて欲しいというものだ。

 風紀委員室に戻る直と一緒に、光穂は廊下へ出た。職員室前を通り、購買のある別館へ進む。雨の日は二階から廊下を渡って行くが、今日のように晴れている時は保健室前を通り、生徒玄関を抜けた。右手側に広がる運動場では部活動に精を出す生徒達の声が聞こえる。
 体育館の向かいにある別館には購買と図書館が入っている。直の話は光穂の心を少し暗い気持ちにさせた。
 特に明史は初等部からこの学園にいる。中等部からの学年差は大きいが、初等部の時の二歳差というのは、意識するほどではない。休み時間ごとに低学年の生徒達が一緒に校庭で遊ぶ光景は今でも見られる。
 購買の前を通り過ぎようとした時、艶やかな黒髪の頭が見えた。身長で判断したとばれたら、本人は気分を害しそうだが、あの髪と身長はどう見ても明史だ。光穂は購買の中へ入った。
「光穂先輩だ!」
 光穂達の先輩にあたる卒業した生徒会長が強面だったため、現在の二年からは気軽に声をかけられることが多い。光穂はほほ笑みながらあいさつを返す。生徒会長という役職に就くことが決まった時、自分には荷が重いと秋秀をはじめ周囲に漏らした。
 皆、光穂を支えるから、と言ってくれて、とても嬉しかったことを思い出す。秋秀に言わせれば、人望が厚いからだと手放しで褒められて、くすぐったい気分になった。自分の周囲にはいつも誰かがいた。
 光穂は生菓子のコーナーで、生クリームがたっぷりと乗っているプリンを手にした明史に近づいた。直から話を聞いたせいか、肩が頼りなく揺れているように見えた。
「明史」
 言葉をかけるのは四月の歓迎会以来だ。行事がある時は特に問題が起きないように風紀委員が見回りをしてくれる。自分よりもまだ背の低い明史は、思わず息を飲むほど儚く見えた。
「……フルーツタルトにしないの?」
 昔、中等部の購買で買い占めようとしていた光穂に、明史がおずおずと、「先輩、そのタルト、一つだけでいいので、僕に残してください」と声をかけてきたことがある。その時もきれいな子になったなぁ、と感慨深く思ったものだが、今、目の前に立っている明史はさらに美しく成長していた。
 風紀委員という嫌われ仕事のせいで、あまり友達と群れているところは見たことがない。ただこんなにきれいだと、近づきがたいと思って敬遠している生徒は多いだろうと思った。
 そういう意味では、志音が明史に接近したのは納得できる。明史は成績こそ芳しくないが、まさに完璧と言える容姿だ。心労からなのか、少しやつれた感じがその美貌をより美しく見せていた。


21 23

main
top


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -