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spleen20/i

 精液が出ない状態で射精を強制され、黒岩が彼の欲望を満たすためだけにセックスをした後、明史は完全に気を失っていた。日曜になり、また昨日と同じようにペニスへ貞操帯を装着される。
 昨日と異なるのは、黒岩が明史のケータイから家族用のメールボックスへアクセスしていたことだ。兄宛のメールを開いた彼は、一通ずつ読み上げた。それが明史の精神をどれほど傷つけるか、黒岩は分かっていた。
 友達と楽しく学園生活を送っている様子を書いた嘘メールに、兄はいつも安堵して返信をくれる。時おり、P2Pシステムを利用してテレビ電話で話をするが、その時も明史は終始、笑みを浮かべて、楽しくて仕方ないという雰囲気を出した。
「別に俺はいいけどな、おまえがあと二年、俺を楽しませてくれるなら。でも、もし、若宮を落とすなら、解放してやろうか?」
 嘲笑されながら、兄へ書いたメールを読まれ、実際の学園生活のことを指摘され、明史の心は限界に達していた。解放してやろうか、というのはもちろん貞操帯のことだろう。だから、頷かずに耐えた。

 月曜の朝、明史は校門から登校した。教室へ入り、通常通りに授業を受ける。志音からは最初のメールと昨日、もう一度メールがきていた。
 あの後、未送信メールに溜まっていた両親宛のメールまで読み上げられた。両親宛のメールは一度も送っていない。アドレスを知らされていないから送ることはできない。そのことを指摘され、明史は、「若宮を落とせ」という黒岩の言葉に頷いた。
 どうせ志音が自分を好きになるわけがない。誰だって、目の前で人が落とされかけていたら助けるだろう。志音は完全に同情心から、自分に興味を持っているだけだ。接触やキスは全部気まぐれで、他に恋人がいるに違いない。だから、大丈夫だと信じた。
 昼休みになり、教室から出たところで志音が歩いてくる姿が見えた。明史はわざと視線を外して、廊下を通り過ぎようとする。
「明史」
 名前を呼ばれただけで泣きそうになった。
「メシ、食べるぞ」
 メールに返信がなかったことについては何も言わず、まるでずっとそうだったように、昼食に誘われた。自然に手を握ってきた志音は、周りを気にすることなく、少しだけ屈む。明史の耳元で、「デザート、何がいい?」と弾んだ声を出した。
 今までまったく接点はなかった。だが、こんなふうに触れて、こんなふうに優しくしてくれる志音のことが好きだ。明史は左手を握り締める。大丈夫ではない。好きな人を貶めるなんてできない。志音を巻き込みたくない。
 たった数日、夢を見せてくれた。今も大事な存在だと、つながった熱い右手が教えてくれる。明史は放しがたいその手を振り払った。そして、まだ熱の残る右手で、志音の左頬を叩く。
 乾いた音の後、周囲は騒然とした。明史は驚いて目を丸くしている志音に笑いかける。
「若宮、ウザいからつきまとわないでくれる?」
 黒岩との約束を反故にすれば、またお仕置きされる。それでも、志音は自分から遠ざけておくべきだ。他の生徒達のように遠くから憧れる存在にしておくべきだ。
「俺、付き合ってる人、いるから」
 明史は志音をまっすぐに見つめた。志音はまだ驚いているように見えた。
「あんたなんかより大人で、力もあって、俺の将来に関わる、大事な恋人がいるんだ。ほんと、迷惑だから、俺の視界から消えて」
 耳に自分への中傷が入ってくる。明史はすぐに寮の部屋に行って、泣き叫びたい気分だったが、冷たいと言われる切れ長の瞳で前を見て、歩く。志音は追ってこなかった。それでいいはずなのに、心から喜べない自分がいる。
 明史はそっとくちびるに触れた。自分が守ったものは大きい。だが、失ったものも大きいのだと気づき、明史はくちびるから左胸に手を移動させた。


19 21(秋秀×光穂)

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