spleen16/i | ナノ


spleen16/i

 生徒によっては家具を入れている場合もあるが、明史の部屋は寮に最初からついているベッド、勉強机、椅子、クローゼットしかない。床にはじゅたんも敷いておらず、あぐらをかこうとした志音にベッドをすすめた。
「いただきます」
 志音が買ってきた弁当は二人分あり、彼がここで一緒に食べるつもりだと分かった。プリンやケーキも袋に入っている。そのデザートも二人分のため、飲み物だけ取りに出た明史はこっそり笑み浮かべた。
 志音は甘いもの好きにはとても見えない。ベッドに座り、ひざの上に弁当を乗せて、二人で並んで食事した。デザートを食べ始める頃、志音のケータイが鳴った。
「あぁ? 俺、もう食った」
 それだけ言って、志音はすぐに切り、サイレントモードに切り替える。チョコレートケーキの上に乗っているピスタチオだけをすくうようにして口へ含んでいると、彼はプリンを開けて、生クリームをおいしそうに頬張った。
「俺、甘いもんがすげぇ好き」
 二重まぶたの下の大きな瞳が細くなり、志音が嬉しそうにプリンを食べる。大きく開いた口の中へ消えるプリンを見ながら、明史は小さく息を吐いた。本当は直や他の、いわゆるかっこいい生徒達を見て騒いでいる生徒達の気持ちはよく分かる。
 気持ち悪いなんて言いながら、明史も彼らと同じように憧れ、恋人という立場にいる生徒を羨んだ。抱かれたい、という思いはほとんどなく、ただ優しく大事に扱われたいという願望がある。
 黒岩に体を奪われた時、あまりの痛さにその行為に恐怖を覚えた。だが、慣れと彼の使う薬のせいで、いつしかその行為に溺れた。今も嫌悪感があるのに、明史のアナルは黒岩を受け入れ、乱暴にされてもちゃんと感じて射精することができるようになった。
 気持ちの伴わない行為でも、相手を喜ばせ、自分も絶頂を迎えることができる。気持ち悪いのは自分自身だ。
「明日、何時に出んの?」
 プリンをスプーンですくいながら、志音が尋ねてくる。
「十時くらいかな」
 ケーキだけでお腹がふくれた明史が手を合わせて、「ごちそうさまでした」と言うと、志音がまだ封の開いていないプリンへ手を伸ばす。
「もらうぞ」
 明史は頷いて、財布を探した。ほとんどカードで払っているが、こういう時のために現金も持ち合わせている。
「金はいらねぇ。なぁ、明日、車で送る」
「え、いいよ。大丈夫だから」
 おそらく足のことを気づかって言ってくれたのだろう。
「……親に言えば、迎えにきてくれるし」
 里塚に言った嘘と同じことを言えば、志音は、「そうか」と頷いた。彼は時おり、こちらの話を聞かず、自分本位で話を進めてくるが、確かに優しい。反対方向だというのに、送るという申出は嬉しかった。
 その後はまた宿題をして、志音は十九時半頃に部屋へ戻っていった。時間があればメールしろ、と再度、念を押されたが、おそらく今週末、会うことはない。そのことを考えると、明史は憂うつになる。
 ユニットバスにある鏡を見つめて、明史はキスされたくちびるをなぞり、額へ触れた。初めてのキスだった。思い返すだけで、体がそわそわして、胸が痛い。好きになったら辛いだろうと思った。明史は涙を流している自分を見つめながら、もう遅いとくちびるを結ぶ。
 あのマリン系の香りを思い出すだけで、志音に抱き締められている気分に浸れた。
「若宮が好き」
 絞り出すように洗面台に両手をついて、嗚咽を漏らした。好きなのに、伝えられない。黒岩に気づかれたら、終わりだ。明史は泣きながら、シャワーを浴びた。


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