spleen15/i | ナノ


spleen15/i

「今日は購買で買って、部屋で食べるけど……」
 志音は明史の足を見てから、センターで分けている前髪へ触れてきた。
「じゃ、買ってきてやる。その足、痛むんだろ。何が食べたい?」
「な、何でもいい」
 頷いた志音が、そっと屈んで頬にキスをしてきた。朝はマリン系のさわやかな香りだったが、今は深く甘い落ち着いた香りに変わっている。廊下へ出た彼の背を見送った後、思わずその場にへたり込みそうになった。
 右足のケガがあるため、壁に背をあずけただけだが、明史はケータイを操作して受信されたデータを見つめる。志音の番号やアドレスが登録されていた。騙されていたとしてもいいと思えるくらい胸が高鳴る。
 しばらく眺めていると、インターホンが鳴った。扉を開けると、志音が大きな袋を提げて戻ってきた。
「ありがとう」
 冷蔵庫へ袋ごと入れた志音の背中へ礼を言った。彼は振り返ると、「まだ食べないだろ。宿題済ませるか」と、また勝手にポケットへ手を入れて、今度はカードを取り出す。
「若宮、ここでするの?」
 明史の部屋へ入り、ディスプレイを見た志音は、タッチ操作で八組の授業内容を出した。
「ふーん」
 志音自身の宿題かと思ったら、彼は明史の宿題を見てくれるようだ。椅子に座るように言われて、腰を下ろすと、彼が屈み込んで顔のすぐ横に迫った。
「苦手な教科は?」
「え、えーと、英語以外全部」
 志音が吹き出す。宿題や課題が出ている教科は、トップ画面の教科別表示の部分がピンクに変化している。彼は英語からタッチした。この学園で英語が苦手な生徒はなかなかいない。
 初等部から英語の授業はリーディング、ライティング、オーラルコミュニケーションと分化されており、中等部から理数系の授業の一部で英語の授業が実施されている。希望する生徒だけ放課後に部活動の一環のような形で行われているが、五時間目で授業が終わる日に開催されていて、ほとんどの生徒がその授業を受けている。
「英語はすぐできそうだな。数学は?」
 金曜に出される宿題は他の日よりも多い。キーボードを叩きながら、数学の宿題に手をつけ始めた明史は、隣であぐらをかいてケータイをいじる志音を見た。各部屋にあるパネルは一つだけのため、一緒に宿題をするとなると、ケータイからログインするしかない。
 志音はパネルに比べると小さな画面を見つめながら、どんどん打ちこんでいく。その姿を見ていると、彼は視線に気づいて、こちらを見上げた。
「どれ?」
 分からない問題があると思ったのか、志音がひざをついて、明史のパネルを見つめる。一組の生徒からすれば簡単過ぎるのだろうか。同じ教科書を使っているはずなのに、ここまで習熟度が異なるのは、やはり頭脳が違うということなのかもしれない。
 分かりやすい説明を聞きながら、明史は目の前で動く指先に集中した。心地よい低い声音にだんだんとまぶたが重くなる。昨日はあまり寝つきがよくなかった。
「こら、おまえ、俺に説明させておいて寝るなんて大した奴だな」
 額を指先で弾かれて、明史ははっと目を開く。
「ご、ごめん」
 痛くはなかったが、額を押さえると、志音が立ち上がり、額へキスを落とした。
「メシ、持ってくる」
 顔が熱い。あの外部生の言葉はやはり嘘だったんだ、と思う。もし、彼と付き合っているなら、志音がこんなふうに自分へキスをするはずがない。舞い上がりそうになる心を抑えて、パネルからログアウトした明史は、扉を開けにいく。


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