spleen14/i | ナノ


spleen14/i

 痛む右足を引きずるようにして、保健室までたどり着いた明史は、カードを当てて開いた扉の奥へと進む。
「いらっしゃい」
 里塚が椅子から立ち上がり、出迎えてくれる。彼はすぐに眉を寄せた。
「あれ?」
「あ、俺、鈍くさくて、さっき、階段から落ちちゃって……」
 ソファへ座った瞬間、ケータイが震え出す。直からだった。
「もしもし? え、はい。分かりました。いえ、ありがとうございます」
 田沢から今朝の話を聞いたらしく、直は放課後の活動に参加しなくてもいいと連絡をくれた。毎日の活動は当番以外にはないが、委員会という組織に属している生徒達は、放課後はたいてい与えられた部屋に集まっていることが多い。
「落ちたなら、足以外にもアザがありそうだね。カーテンで仕切るから、脱いでくれる?」
 里塚にそう声をかけられて、明史は慌てて首を横に振った。腹や背中などの見えにくい部分には確かに青アザがある。だが、それを見せるわけにはいかなかった。
「落ちたといっても、あの、軽く足首ひねる程度で、足以外はどこもぶつけてないし、え、と、あの、とにかく大丈夫です」
 以前なら、表情を変えずに嘘をつけた。だが、今日は調子が狂う。里塚を見ると、彼は疑うようにこちらを見ていた。明史は小さく息を吐く。
「俺、明日から家に帰るんです。両親に病院へ連れてってもらうので、大丈夫です」
 湿布を替えて先ほどよりきつめのサポーターをつけた里塚は、小さく頷き、「体育は二週間見学に変えるけど、それ以上になりそうなら、連絡して」とケータイを差し出す。連絡先を交換した後、湿布を数枚もらって、明史は寮へ戻った。

 朝より痛むため、歩きにくい。今日は食堂ではなく、購買で買って部屋で食べることにした。パネルからメールが届いた音が響く。黒岩が時間と場所を指定してきた。学園外で会う時は、彼の指定する場所まで交通機関を使う。そこから、彼の運転する車で、彼の家へ向かう。
 インターホンが鳴ったが、自分を訪ねてくる生徒はほとんどいないため、明史は部屋の中にいた。もう一度鳴り、続けて何度も鳴り始める。将一がカードキーを忘れたのだろうか。共有スペースまで進み、パネルに映る志音の姿を見て、息を飲んだ。
 まだ鳴り続けているインターホンを聞きながら、扉を開ける。
「昼、教室にいなかったな」
 志音の話はいつも唐突な気がした。
「あ、うん」
「足は?」
 中に入ってきた志音が足元にしゃがんだ。そっと触れて、すぐに立ち上がる。
「何かひどくなってねぇ?」
「ちょっとつまづいて……」
「外出届、出してただろ?」
「え、うん」
「明日か明後日、空いてるか?」
 黙って、志音を見上げると、彼は朝のようにこちらを凝視している。
「へ?」
 たっぷり考えた後に出てきたのは、言葉ではなく驚きの音だけだった。
「へ? じゃねぇよ。家、帰んのか?」
 頷くと、「どこ?」と聞いてくる。電車で一時間ほどの場所だ。
「俺んちと正反対の場所だな。クラスも端っこから端っこだし、全然気づかないわけだ」
 志音はいきなりポケットの中に手を入れて、明史のケータイを取り出した。彼のケータイも取り出し、両手で器用にデータの送受信を始める。
「俺も土日は家に帰ってる。時間、できたらメールしろ」
 手に返されたケータイを見つめていると、「おまえ、メシは?」と聞かれる。


13 15

main
top


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -