spleen12/i | ナノ


spleen12/i

 不意に直と航也のキスを思い出す。絡んだ指先や互いを愛しそうに見つめるその瞳が再生され、すぐに消えた。志音が明史の体を抱える腕を少し上げて、かすめるようなキスをしたからだ。くちびるはすぐに解放される。
 疑問を口にする前に、志音が笑みを作った。
「キス、して欲しそうな顔だったから」
 見惚れるほど美しい笑みと、少しはにかんだような声で言われた言葉に、明史は真っ赤になっていた。昨日から彼のペースに巻き込まれている気がする。だが、嫌ではなかった。嫌ではない、という自分の感情に、明史は周囲を見回す。
 よく考えてみると、今までまったく接点がなかった。それなのに、志音は嫌われ者の自分を助けてくれた。そんなことを疑う自分が恥ずかしいが、これは何かのゲームではないかと思ったのだ。
 志音に気を許したところで、隠れていた観客が出てきて、嫌われ者を嘲笑する。明史はいつの間にかつかんでいた彼のブレザーから手を放した。彼は先ほどと同じように自分のことを見つめている。
「あー、ごめん!」
 階段から駆けてきた里塚が白衣をなびかせる。
「ほんと、ごめん。先生たちと話し込んじゃって。ケガ? 足首かな? すぐ開けるから待ってね」
 柔らかい笑みを浮かべた里塚はカードで扉を開くと、中の電気をつけた。
「そこのソファに座って」
 冷房が入っているわけでもないのに、保健室はひんやりとしている。里塚はパネルの電源ボタンを押して、すぐにソファへ座らされている明史の元へ来た。
「右足?」
「はい」
 ズボンの裾を上げて、靴と靴下を脱がされた。右足首は腫れており、ところどころ赤紫に近い色になっている。
「ひねったんだね。捻挫だと思う」
 里塚の冷たい指先が心地よく、目を閉じると、髪をなでてくる手があった。驚いて目を開けると、隣に座っていた志音だった。里塚が手早く湿布をはり、真新しいサポーターをつけてくれる。
「今日は体育あるかな?」
「ないです」
「じゃあ、カード貸して。一週間、体育は見学」
 明史のカードをパネルへ読み取らせた里塚が、キーボードを叩く。
「はい、ありがとう」
 里塚は明史とまだ明史の髪に触れている志音を見比べた。
「若宮君もカード貸して。一時間目は正当な理由で遅れたって、先生に知らせておくよ」
 その一言で髪をなでていた志音の手がようやく止まった。里塚にカードを渡した志音は、サポーターをつけられた明史の右足首へ、靴下を履かそうとする。
「おまえ、髪、さらさらだな」
 足元にしゃがみ、靴下を履かせてくる志音は、窮屈になった靴の靴紐を少しずつ緩めた。
「あれ? 大友君、熱かな?」
 里塚が心配そうに額に手を伸ばす。
「だ、大丈夫です。ありがとうございました」
 脇に大量の汗をかいた明史はブレザーを脱ぐ。
「放課後、また来れる?」
「え、あ、はい」
「替えの湿布、渡すから来てね」
 保健室を出た明史は教室のある三階まで上がるため、階段のほうへ向かう。
「教室まで送る」
 志音は有無を言わさず、明史の体を抱えると、ゆっくりと階段を上がった。明史はすっかり混乱して、もう何も言えなくなってしまった。


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