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 水川からの呼び出しメールをディスプレイで確認した明史は、テーブルに設置されたパネルからログアウトをして立ち上がる。職員室へ入り、水川を目で探した。
 風紀顧問の水川は生徒から人気のある話しやすい教師だ。どちらかといえば、生徒寄りで楽しいことが好きと公言している彼は、カジュアルスーツを着こなしている。モデルに見えなくもないため、一部の生徒には熱狂的に支持されていた。
「おーし、やっと来たか。じゃ、密室に行くぞ」
 水川の物言いに周囲の教師や生徒達が笑った。
「先生、話ならここでできます」
「いや、俺はできない。二人きりにならないとできない話だ」
 座っている時には気にならないが、立ち上がるとその身長差に溜息が漏れる。明史は水川を見上げた。
 一瞬、鋭い視線を感じて見渡すと、黒岩が神経質な瞳でこちらをうかがっていた。明史は個室へ連れていこうとする水川の横に並ぶ。
「先生、話って何ですか? ここでいいから言ってください」
「おまえがよくても、俺はよくないの」
 子どもみたいな言葉に、明史はいらいらした。水川の長い指先が肩に触れ、個室へ入るように促す。中へ入ると、扉がオートで閉まった。
「ちょっと待ってな」
 ソファに座って、ポケットで震えたケータイを取り出す。黒岩からのメールだった。余計なことは言うなという念押しだ。
 明史はそれを削除して、そのままID端末のメールボックスを開いていく。特に新しいメールはないが、黒岩からのメールは受信サーバーからも削除しておいた。
「はーい、お待たせ」
 トレイに紅茶とフルーツタルトを乗せてきた水川が、テーブルにそれを並べていく。明史は苦笑した。
「先生、皆の弱点、覚えてるんですか?」
 水川は口元を緩めて向かいへ座る。
「皆じゃない。気になる可愛い子の好きなものは押さえておく主義なんだ。惚れ直した?」
「まだ惚れてもいません」
「きっついなぁ。でも、明史はそこがいいんだけどさ」
 食べて、とすすめられ、ケーキやタルトが大好きな明史はさっそく頬張る。きちんと冷蔵庫に入れて保管していたらしく、ゼリー部分は冷たいが、新鮮な果物がふんだんに使われていておいしい。
 あと一口のところで、ようやく水川が話を始めた。
「期待させておいて悪いんだが、今日、呼び出したのは告白じゃないんだ」
「はぁ、それは分かります」
 水川と話すと明史は疲れる。そういう意味であまり近寄りたくない存在だが、この子どもっぽい茶目っ気のあるキャラで生徒の信頼を得ているのは事実だ。
「むしろ、おまえの告白を待つ、みたいな?」
 フォークを空の皿へ置いた明史は、一転して真面目な表情になった水川を見返す。
「先生は好みじゃありません」
「ふーん。じゃあ、黒岩先生は?」
 明史はごく自然に瞬きをする。
「好みですよ。しかも、俺の進路に直接関わる人です」
 含みのある視線で水川を見つめた。彼は足を組んで大きく伸びをする。
「黒岩先生も昔はいい先生だったんだけどな。婚約破棄された噂が出始めてから変わった」
 明史はソファから立ち上がる。
「黒岩先生は優しいです。何が言いたいんですか?」
 水川は緩く首を横に振った。その仕種に腹が立ってくる。出ていこうとすると、「明史」と呼ばれた。


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