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spleen5/i

 明史はくちびるを結び、コンドームと潤滑ジェルを取り出す。ローテーブルの上に置くと、黒岩が楽しそうに聞いてきた。
「どっち使う?」
 明史は小さな声で返した。
「……もう少し、小さいのはないですか?」
「あるわけないだろ。今日の選択肢はそれだけだ。早く脱いで、自分で広げろ」
 ダークブルーが基調の制服にはホワイトのラインが入っており、制服にしてはお洒落だった。ベルトを外して下も脱ぐと、黒岩の手にあるケータイが光る。撮影されるのは今回が初めてではない。
 明史は諦めて、小さく見える張り型のほうを手にした。まずはコンドームを中指に被せて、潤滑ジェルのキャップを開ける。兄と比べることなく、自分には自分のよさがあると言ってくれた目の前の男に強姦されたのは、中等部二年に進級してからだった。
 脅迫されていると誰にも相談できない。撮影されている動画はどれくらいあるのか見当もつかず、彼の命令に従う日々だ。無理やり体を押し開かれた日、それまでは八組の生徒であっても、推薦で入学できると言っていたのに、その後からは嘲笑された。
 兄の通った大学の推薦は三組以降のクラス所属だとかなり厳しい。黒岩に媚びを売ったところで、明史の目標は達成できない。だが、明史は現状を変えるだけの力を持っていなかった。
 兄と同じ大学へ行きたい願望はあり、推薦ではなく一般入試で入ろうと思っている。毎年八組の明史だが、この学園の八組は世間ではまだハイレベルな学力を持った生徒達という位置づけになる。学部を選ばなければ、兄の卒業した大学へ進学するチャンスは明史にもあった。
 中指でアナルを解した後、人差し指を入れて、薬指、と増やした。最後に張り型へコンドームを被せて、自分でアナルへ突っ込む。
「っあ、く……」
 十分に解したつもりだったが、やはり張り型のほうが大き過ぎて、息が詰まりそうになる。うっすら目を開けると、黒岩が頷いた。自慰をしろという命令だ。明史はくちびるを噛み締めて、右手で張り型を動かし、左手でペニスを扱いた。
 好きでしているわけではなく、脅されてやっていることだった。しかも撮影されているため、明史のペニスはなかなか射精しない。早くしなければ、機嫌を損ねる前に何とかしなければ、とあせるほど、呼吸が上がり、涙があふれた。
「助けてやろうか?」
 本当は助けて欲しくなどないが、拒否はあり得ない。この二年で黒岩が強要した行為の数々は、明史を抵抗しない人形に変えるには十分だった。口でしろ、と目の前に出された彼のペニスを、教え込まれた通りに口の中へ導く。
 肩口にあった青アザを指で押されて、ペニスを吐き出すようにせき込むと、黒岩が笑った。
「かわいそうな明史。皆に嫌われてるんだ。おまえの兄貴は人気者だった。ずっと一組で、生徒会役員で、皆に慕われてた。両親にも愛されてる。初等部の授業参観から、二人そろって来てたらしいな」
 明史はこらえきれずに嗚咽を漏らし、両手で顔を覆った。
「っや、やめて、せんせ、やだ」
 聞きたくないと頭を振ると、押し倒されて、張り型を抜かれる。黒岩がペニスを突き立てた。
「ッアア、や、も……やめっ、あ、ァ」
「おまえの時はどうだったっけ?」
 強姦されるまで優しく接してくれた黒岩に、明史は自分の心の内を話していた。優等生の手本となる兄、劣等感しか抱けない自分、自分には無関心な両親。すべて自分から彼に語ってしまったことだ。
「六月が楽しみだな」
 授業参観のある六月はまだ二ヶ月も先だ。仕事の都合で来ない親のほうが圧倒的に多い。だから、気にすることはないはずだ。兄の時はすべて参加して、自分の時にはまだ一度も来ていないが、大したことはない。
 黒岩が体を激しく揺さぶった。明史は内側から壊れていく音を聞きながら、ゆっくり目を閉じた。


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