spleen3/i | ナノ


spleen3/i

 直は少し足を開いて、体をソファの背もたれにあずけた。困らせていると分かり、何か違う話題を探していると、パーテーションのそばで他の風紀委員達が声を上げた。
「癒着って、自分は教師と癒着してるくせに」
「先輩にたて突くとか、何様だよ」
 ぼそぼそと聞こえる声は、意外にはっきりと耳に入ってきた。直が立ち上がり、「二人で話してるから、おまえ達は自分の仕事に戻って」と指示を出す。直は向かいに戻らず、明史の横にしゃがんだ。
「明史は真面目で人付き合いが苦手なんだろうな。おまえみたいな人間は必要だ。だけど、いつもおまえ一人で嫌われ役を引き受けなくていい」
 明史が直を見ると、彼は優しくほほ笑んでくれた。
「違反したら罰っていう繰り返しをしても、お互いしんどいこともある。だから、そういう時は臨機応変に対応する。分かったか?」
「はい」
「それと……」
 直は少し言いにくそうに、一瞬だけ床へ視線を落とした。
「黒岩先生への報告だけど、それは先生に言われたのか?」
「……いえ、俺が勝手にしてるだけです」
「中等部の時から?」
「はい。先輩、あの、皆の言う通りです。俺、成績悪くて、内申上げて、黒岩先生からの推薦で進学したいから、先生に取り入ってるんです」
 直は怪訝そうな表情でこちらを凝視した。
「そうか。そのことに関しては、俺は何も言う権利はない。でも、今後、水川先生が空いてたら、水川先生を優先して報告してもらえるか?」
「はい。巡回の時間なので行ってきていいですか?」
「あぁ……田沢と行けよ」
「はい」
 田沢は一年七組の風紀委員だ。巡回する時は二人一組が鉄則であり、たいてい隣の組同士で組んでいる。一人で回っていることが直にばれるとうるさいため、田沢は嫌々ながらも一緒に巡回してくれる。
「聞いた? 自分で認めちゃってるし」
 風紀委員室を出る前に、背後で悪口が聞こえた。明史は内側からはオートになっている扉の前に立ち、廊下へ出ていく。制服のポケットに入っているケータイを取り出して、田沢へメールを送信した。

 校舎から寮までは一本道になっている。中等部と高等部の寮はそれぞれの校舎と同じように別々になっていた。中等部の寮は四人部屋だが、ベッドや勉強するための個室は自分一人だけの空間だった。
 高等部からは二人部屋になり、共有部分にユニットバスが追加される。私立の学園で初等部から通う生徒が八割のため、経済的に困っている家庭の生徒はほとんどいない。二割は中等部か高等部からの外部生になるが、やはり裕福な家庭の生徒が編入してくる。
 もちろん一定の成績以上やスポーツ特待などを条件に奨学金制度もあった。部長という役職で働いている父親と料理家として本を出版している母親を持つ明史は、金に困ったことがない。
 一度、寮に戻ってから、私服に着替えて、食堂へ入った。パネルに表示されているセットメニューを見て、夕食時のため混み合っている列の最後尾に並んだ。八歳上の兄もこの学園で学び、トップクラスの成績で卒業した。今はアメリカの企業に就職し、両親自慢の息子だ。
 小さい頃から、両親の関心は兄にあった。初等部では成績順でクラス分けされないが、成績表を見れば順位はすぐに分かる。兄と比べられることは苦痛だった。兄はとても優しく、八つも離れていると、あまり一緒にいる時間はなかったが、その場にいる時はいつもかばってくれた。
 母親は三時のおやつを手作りしていて、兄が中等部に上がるまでその習慣は続いた。時おり、週末に兄が帰宅すると、喜んで焼き菓子を作った。兄がいなければ、明史がその手作りのお菓子を目にすることはない。
 父親も、兄が帰宅する金曜の夜はいつも以上に早く帰っていた。明史が中等部の頃、家に帰ると伝えると、その週は旅行だ、その週は遅くなる、と何度も言われた。明かりのついていない家に帰るのが寂しくて、明史はもう半年以上、帰っていない。


2 4

main
top


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -