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spleen1 志音×明史/i

 大友明史(オオトモメイジ)は長いリノリウムの床を歩いていた。窓から射す光がはね返り、まぶしい光の塊に見える。明史は廊下の突き当たりにある生徒会執行部の部屋を目指している。彼は執行部員ではなく、教師に頼まれた来月の行事予定表をついでに生徒会へも一部、届けるだけだった。
 全寮制であるこの学園は一学年に二百五十人から三百人ほどの生徒がおり、クラスも八クラスから十クラスほどの編成になっている。全寮制になるのは中等部からだが、これだけ人数が多いと、初等部入学から高等部卒業まで顔と名前の一致しない人間も出てくる。
 明史は自分では目立っていないと思っているが、生徒会執行部と深い関わりを持つ風紀委員になっている時点で他の生徒とは違った。風紀委員は各クラスから一名ずつ任命される。自薦、他薦は問われないが、自薦という自殺行為は、中等部に上がって以降、見たことも聞いたこともない。
 風紀を乱す者をただし、秩序を守るための風紀委員は嫌われ者だった。特に中等部から全寮制になるため、学園内だけではなく寮内での規則に縛られる生徒達からすれば、取り締まる側は目の敵になる。
 各クラス一名ずつ任命され、その中でさらに学年代表の風紀委員が決められる。明史はうっかり中等部一年の時に学年代表にさせられてから、結局、毎年学年代表の風紀委員になってしまった。
 生徒会室は教室二つ分くらいの大きさで、月一の定例会が終わったばかりだからか、コ型の長テーブルにはまだ資料が散らばっていた。
「めーじ、お疲れ」
 生徒会長の姿はなかったが、副会長と書記、そして総務の二人はそれぞれの仕事をしていた。学園じたいが大規模なため、生徒会長以外はニ名ずつ選出され、補佐として総務という役職がある。
 生徒会執行部も自薦、他薦は不問だが、成績が一定以上でなければ立候補できない。現在の生徒会長は三村光穂(ミムラミツホ)という三年生で、柔和な雰囲気を持ちながら、執行部を動かす時は厳しい表情も見せる頼れる先輩だった。
 めーじ、と呼び捨てにしたのは副会長の一人、荒川達義(アラカワタツヨシ)だ。たいてい生徒会執行部に関わる役職に携わるのは初等部からの生徒ばかりで、達義も学年は違うが互いによく知っていた。
「あー、来月、ちょっと楽だな」
「そうですね」
 今月は外部から入学した生徒達と高等部一年の歓迎会があったが、無事終わっている。五月は図書館で大きな催しがある程度だ。
 達義と少し話していると、視線を感じた。明史はその視線に込められた思いに気づき、達義の話を遮る。
「では、これで。失礼しました」
「あ、めーじ?」
 生徒会と風紀は仲がいい。互いに協力しなければ成功はありえないからだ。生徒会長の光穂は人の扱いに長け、人望も厚い。風紀委員長の徳田直(トクダスナオ)も嫌われ役にもかかわらず、人の扱いがうまく、風紀を乱す生徒達からも一目置かれている。
 明史は来た道を戻りながら、くちびるをとがらせた。生徒会メンバーにまで嫌われている。それは明史が風紀委員だからではなく、その立場を使って教師に媚びを売っていると思われているからだ。
 そして、それは事実のため、反論しようがない。明史の学年、高等部一年は八クラスの編成で、成績順でクラス分けされている。明史は一年八組、つまり成績はかなり悪いほうだった。
 成績の悪いクラスの風紀委員というのはもっとも忌み嫌われていると言っていい。三十人程度のクラスメートは全員敵であり、授業をサボタージュする生徒、屋上や空き教室で群れている生徒、あるいは隠れて喫煙するような生徒がいれば、明史はすぐに教師へ報告した。




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