meteor20/i | ナノ


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 メインのブリは日本のブリの照り焼きのような色をしていた。だが、ブリの上にはやはりバジルとニンニクソースがかかっていた。
「良い香り」
 フィッシュスプーンを右手に由貴はそっと身を切る。ブリといえば照り焼きか、ブリ大根の味しか知らない由貴の舌に、ブリのニンニクソースがけは新しい味覚をもたらす。
「おいしい!」
 アランが嬉しそうに笑う。由貴は彼から、皿の縁に飾られた果物は口直しに食べるものだと習い、ブリを完食した後、果物を口にした。
「デザートはどうする?」
 食後酒として運ばれてきたグラッパを飲み干した後、由貴は完全に呂律が回らなくなった。
「エスプレッソだけ酔いさましに飲んでいくか?」
 頷くと、アランが立ち上がる。どこへ行ったんだろうと顔を上げると、ウェイターがエスプレッソと水を用意してくれた。
 飲み過ぎた、と由貴は少し反省してから、ようやくアランが食後酒のグラッパ以外、アルコールを飲んでいないことに気づいた。それは運転手として当然のことだが、どうして先にタクシーを使おうと自分から提案しなかったのかと悔やんだ。思い返せば、外で食事するパターンはいつもこうだ。
 由貴は思い当たり、後ろを振り返る。店の奥でアランがウェイターと話をしていた。ウェイターが一礼して彼にカードを返す。
 カッコいいなぁ。
 アルコールの力で思考能力が著しく下がった由貴はそんなことを思う。
 これから、家に帰って彼とセックスする。
 考えただけで、由貴の中心は熱くなってくる。
「ヨシタカ」
 優しく呼ぶ声に顔を上げると、アランが当惑した表情を見せた。
「っなんて顔で見てるんだ」
 由貴はアランに支えられ、レストランを出た。夜風が火照った体に心地良い。
 車内でも由貴は窓を開けて、その風を感じた。彼は運転に集中していたが、時折、由貴が見つめていると、小さく笑い返してくれる。
「今夜はありがとう」
 好きです、と言う代わりに感謝の言葉を述べる。
「こちらこそ、素敵な夜をありがとう」
 アランは前を見ながら、だが、心のこもった声で言葉を返してくれた。

 二十分ほどのドライブは由貴の火照った体を冷やした。食事の後、セックスをしたいと思っていた由貴だったが、アランのベッドにゆっくりと下ろされた途端、猛烈な眠気を感じた。せめて服を着替えて、皺にならないようにしなければ、と裸になる。
 キッチンから戻ってきたアランは、グラス一杯のミルクをサイドボードに置く。
「ヨシタカ」
 下着一枚で寝転んでいる由貴を、アランはそっと抱え込んで起こす。
「ニンニクの臭いには、ミルクが効くから、寝る前に飲んでおくといい」
 一口飲むと、由貴は喉が渇いていたことを自覚して一気に飲み干す。それを見たアランが、ミネラルウォーターの入ったグラスを新しく運んできた。
 由貴は眠気と闘いながら、アランが着替えるのを見つめる。一度、部屋を出た彼はペットボトルを手に戻ってくると、サイドボードの下にそれを置いた。
「もし喉が乾いたら、これ飲んで」
 それから、由貴をまたいで壁際の場所を陣取ったアランは、大切なものを扱うように由貴の体を腕の中におさめた。彼はスタンド式シェードランプのリモコンで光を絞り込む。
「おやすみ、愛しい人」
 最後の呼びかけを聞くことなく、由貴は寝息を立てていた。アランはその頬にキスをして、むき出しの由貴の肩に薄手のタオルケットをかけた。


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