meteor19/i | ナノ


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「……僕のサイズ」
 漏れた言葉に、アランはいたずらが成功した子どものような笑みを見せた。
「特別に作ったんだ」
 愛していると言いそうになる。
 由貴は跪いて、アランにキスを返す。そのキスがあまりに熱烈過ぎて、彼は由貴にストップをかけた。
「レストランの予約に間に合わない。たまには魚料理が食べたいだろう?」
 その優しさに由貴は泣きそうになる。
「前菜はココでもいいよ」
 涙をはぐらかすために、由貴はアランの少し熱を帯びて膨らんだ場所へと触れる。
「バカ。ここはデザートだろう?」
 二人は声を出して笑った。
「おまえがそんなこと言うようになるなんて、出会った頃は想像もしてなかったな。愉快な気分だ」
 由貴は笑いながら、「苦しくて涙が出てきた」、と言う。苦しくて涙が出るのは事実だ。
 あぁ……。
 由貴は運転するアランの横顔を見て確信する。
 誰かのただ一人になりたいのではない。
 彼、アラン・シュッツのただ一人になりたいのだ。

 窓のすべてがベネチアングラスで装飾されている店内は、由貴のイメージしていたモダンなレストランとは違う。イタリア製と思われるオモチャやアンティークなオルガンなどが装飾品として並んでいる。洗練された内装というより、オモチャ箱をひっくり返したような楽しい雰囲気のレストランだ。
 予約客でひしめく店内では、優雅にサービスを提供するウェイターたちのイタリア語が響く。由貴にはイタリア語がさっぱり分からないが、まるでイタリアまで旅行に来たような気分になる。
 ワイングラスに注がれた白ワインは、照明の光できらきらと輝いている。由貴は本格的なイタリアンレストランで食事をすることが初めてで、自分の前菜すら決め兼ねた。
「メインはブリにしようか?」
「はい」
 緊張して返事をすると、アランが笑う。
「好きなものを食べたらいい」
「ブリは好きです」
「ソースはしょう油じゃなくて、ニンニクソースだが、いいのか?」
「はい。あなたもニンニク臭くなるなら構いません」
 由貴が品書きから顔を上げて言えば、アランは声を押し殺して笑う。
「ブリで決まりだな。前菜はムール貝のサラダ? それとも牛肉のカルパッチョのほうがいいか?」
 由貴は少し考えてから、前菜を決めた。
 運ばれてきた前菜のムール貝のサラダは、一人前とは思えないくらいの大皿だった。由貴はウェイターが去った後、小声で告げる。
「僕、これだけでお腹いっぱいになりそうです」
 オレンジ色をしたムール貝は、綺麗に黒い貝殻の中に収まっていて、その上には刻んだトマト、バジル、オリーブオイルがかかっている。色のコントラストが鮮やかで食欲をそそられる。だが、それが大皿いっぱいに並んでいると、二人前にしか見えない。
「多ければ残せ。メインの前にブルシェッタも注文してるから。ここはブルシェッタが特に美味いんだ」
 アランは話をしながら、ムール貝を頬張っている。今まで魚介類の嫌いな現地の人間にばかりに出会ってきたから、由貴はアランの食べ方に感心する。
 ブルシェッタはアランの言った通り、本当においしかった。熱々で運ばれてきたため、香ばしいオリーブオイルの香りとバジルの香りが鼻腔いっぱいに広がる。
「僕、こういうの初めて食べたかも。ピザみたいなのを想像してました」
 由貴が感想を言うと、アランは手を止めて話を聞いた。あまりにも真剣に聞かれるので、由貴は何だか恥ずかしくて、白ワインを飲むことで緊張を誤魔化す。


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