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 由貴の初恋は中学一年生の時だ。三年生の先輩のことが気になって仕方ない時期があった。陸上部だったその先輩のことを、放課後ずっと見つめていた。その時は、夕陽を背景に美しく走る彼の姿に憧憬の念を持っているだけだと思っていた。
 高校生になってから、また気になる同級生ができた。それもただの憧れだと片づけようとした。だが、彼が嬉しそうに彼女ができたと紹介した時、由貴は自分の恋を自覚した。彼女への嫉妬心が、由貴の恋心を目覚めさせた。
 叶わなくてもいいから、好きでいよう。由貴はそう決めて、彼への思いを胸に秘めた。

 目を覚ました由貴はシャッターの隙間から差し込む光を頼りに状況をつかんだ。背中側の熱はアランの体温で、彼は由貴を包み込むように腕を回して眠っている。
 壁掛け時計も目覚まし時計も見当たらないが、由貴はすでに昼過ぎだと予測する。結局、疲れ果てて眠るまで、二人は何度も体を重ねた。
 フローリングの床に無造作に放られている使い終わったコンドームと脱ぎ捨てられた衣服が、無菌室のような部屋の中で浮いている。
 由貴は小さく息を吐き、アランを起こさないようにベッドから出た。脱ぎ捨てた下着と一緒になっているカーゴパンツを拾い上げてはく。
 アランを振り返ると、彼はまだ深い眠りについているようだった。由貴は彼に毛布をかけ直し、バスルームへ行く。
 バスルームもシンプルそのものだ。由貴はバスタブに掛けられたタオルを拝借し、シャワーを浴びるため、また全裸になる。シャワーカーテンを引き、湯がタイルの床へ飛び散らないようにした。
 バスタブの中で膝を折り、冷たい水が温かくなるのを待ちながら、由貴はバスタブの縁に置かれたシャンプーやボディソープを見た。無意識にまた確認している。男性用しか置いていないからといって、アランに特定の恋人がいないとは断言できない。
 由貴は素早くシャワーを浴びると、バスタオルだけ上半身へ巻いて、下は汚れていたが替えがないため、同じものをはいた。歯磨きする代わりに口内をゆすぎ、由貴はキッチンでコーヒーを淹れることにした。何がどこにあるのか分からないが、適当に引き出しを開けると必要な物が出てくる。
 由貴はコーヒーメーカーのスイッチを入れてから、リビングのテーブルに置き放していた空のビンビールをキッチンの流しへ片づけ、落ちていたスリッパをはいた。
 いつもの習慣で外へ出て、新聞を取ろうと思った時、アランが起きてきた。
「おはよう。コーヒー、準備してる?」
「おはようございます。今、沸かしてるところです」
 アランは目に入りそうになる髪を手ですき上げながら、由貴のほうへ歩いてくる。
「その格好で外へ出るのか?」
 それは質問だったが、由貴が答える前にアランが扉を開けて、新聞受けまで新聞を取りにいく。彼の格好こそ、ほとんど裸に近い。
「はい、どうぞ」
 アランは由貴に新聞を手渡すと、由貴の体からバスタオルを奪う。
「クローゼットに何か上に着る物あるだろうから、見てこいよ」
 大きく伸びをしたアランがバスルームへ消えていく。由貴は寝室へ入ってから、コンドームの処理を思い出し、ティッシュを取りにリビングへ戻る。コーヒーの豊かな香りがリビング内に広がっていた。
 由貴は素早くティッシュで使用済のコンドームを取り、ゴミ箱へと捨てる。借りる衣服を見る前に、由貴はコーヒーを適当に見つけたマグカップへ入れた。どうしても一口飲みたくて、そのままブラックで飲む。
 鏡張りのクローゼットは引き戸になっており、由貴は鏡を汚さないように気づかいながら扉を開く。
 中央には仕事着、左に普段着、そして、右の引き出しには下着類が入っているようだ。由貴は左から、大きめの黒いポロシャツを取り出して着てみる。少し大きかったが、一時借りるだけだと悩むことなく決定した。


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