karuna18/i | ナノ


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 トキは土で汚れた指先を掲げた。指の間には葉が挟まっている。トキの座している所は、精霊樹の下であり、うろと幹の間から差し込む光が集まる場所だった。まばゆい光が徐々にトキを包んでいく。
「俺のこと、昔みたいに抱き締めて……必要だって言いながらっ……頭をなでてください」
 まばゆい光の中に包まれるトキの手を、ハルカが握り締める。
「トキ、トキッ!」
 トキの体は真っ白な光の中で消えたように見えた。ハルカの声にこもる感情は、トキを笑顔にする。ハルカが自分のことを心配している。ハルカに抱き締めてもらえた。力強い腕の中にいることを感じた瞬間、トキはまぶたを閉じる。もう十分だろう、と叫ぶ声が聞こえる。トキはまだ十分ではないと思った。もっと、ずっと抱き締めていて欲しい。そう願いながら意識を手放した。

 それは長い夢のようだった。まばゆい光の中で、トキはハルカの姿を見つけた。ハルカはほほ笑みを浮かべ、トキのほうへ近づいてくる。親指の腹が優しく頬へ触れ、指先がトキの髪をすいた。トキが目を閉じると、まぶたへキスが落とされる。そのくちびるはやがてトキのくちびるへ落ちた。
 言葉のない世界で、二人はただ見つめ合い、何度もキスを繰り返す。トキの体は傷だらけだったが、ハルカの手が触れたところから醜い傷痕は消え、白い肌に変わっていく。足の腱へ触れた後、ハルカはそこへも口づけをした。
 気づくと意識がなくなり、また目を開けると、いつもハルカがいた。そして、体中へキスをしてくれる。自分はすでに死んだのだろうか。トキはそう考えて笑った。死んだ後のほうが幸せだと思ったからだ。
「トキ」
 名を呼ばれて、目を開く。真っ白な世界に色が差し込んだ。
「トキ……」
 トキは蔦を集め、その上に葉を敷きつめた簡素なベッドに寝かされていた。目を開いて、ハルカの姿が見えることに驚く。ハルカの黄金色の髪や瞳、城内の幹の色や生い茂る葉の色、すべてがきちんと見えている。思わず指先でまぶたに触れた。
「まだ喉が終わっていない」
 ハルカはそう言って、トキの喉へ口づけた。呼吸が止まりそうなほど熱烈なキスを受けた後、ハルカの名を呼ぶと、かすれて小さくなっていた声が元に戻っていた。トキが首へ触れると、ハルカが笑う。
「辛かったな。だが、もう終わった。もうおまえを苦しめたりしない」
 ハルカはトキの体を抱えると、簡素なベッドの上へ二人で入り込む。トキはまだ夢の続きなのだと思った。ハルカの胸の上へ頭を乗せると、大きな手が髪をなでてくれる。自然と涙があふれた。ハルカの温かさを感じ、自分は死んではいないと悟る。
「ハルカ」
 握り締めた拳で、ハルカの胸を叩いた。その拳をハルカの手が包む。
「人間を愛した精霊達は、彼らに合わせて生きることができる。だが、精霊王はここから離れるわけにはいかない。精霊樹の中で生き続けている歴代の精霊王達は、私がおまえを愛していることに気づいていた」
 ハルカの告白を聞いたトキは顔を上げた。流れた涙がハルカの胸に落ちていく。ハルカはトキの涙を拭ってくれた。
「精霊王となるべき精霊が人間とともに生きたいと願うことは許されない。精霊樹はおまえに試練を与えると言ってきた。私は……傷つくおまえを見るのが怖くて、冷たくあたった」
 ハルカの黄金色の瞳がにじんでいく。トキも指先を伸ばして、ハルカの涙を拭った。
「おまえが最後まで利己的な人間ではなく、精霊樹の精神である他を慈しむ心を持つことができれば、おまえをこの森に迎え入れていいという約束だ」
 上半身を起こしたハルカが、トキのことを胸に抱き、くちびるを奪う。くちびる同士の戯れはしだいに深いものへと変化し、ハルカの指先がトキの脇腹へと触れた。
「許してくれ、と乞うても、おまえはきっとすぐに許すだろう。トキ、おまえのいない時間など、考えられない。ずっとそばにいさせてくれ」
 トキは大粒の涙を流しながら、何度も頷いた。ハルカに自分の存在を求められている。幸せ過ぎて、やはりこれは夢なのではないかと疑った。本当の自分はまだ四つ這いのまま、あの部屋に転がっているのではないかと思った。


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