karuna15/i | ナノ


karuna15/i

 ベッドに寝かされていることだけは分かった。起き上がった後、自分がどこにいるのか把握するため、ベッドから下りようとすると、バランスを崩して体が落ちた。大きな音が響いたが、体は痛くない。腕とひざをついて、四つ這いの姿勢になる。扉の音が聞こえ、トキはその場で顔を上げた。
「起きたのか?」
 誰か、と尋ねたつもりだった。小さなかすれた声が口から漏れる。泣き叫び続けた喉は、時おり飲まされた酒や得体の知れない液体のせいで、すっかり枯れていた。自分が思う以上に小さな声は、相手には何を言っているのか分からず、聞こえないだろう。
「俺はトクサ。おまえはトキだろう?」
 トクサと名乗った男は、軽々とトキを抱えると、ベッドへ運んだ。トキが小さく、「ここは?」と尋ねると、彼は説明を始めた。
 トクサ達は反王国組織を立ち上げており、独自に精霊使い達と連携を取っていた。彼らは戦争を起こさず、国同士がまとまり、これからいかに砂漠地帯を緑化していくか、というところに重点を置いて活動している。
 ルシュタト王国国王が半年前に亡くなった後、国王の座に就いた王子が話し合いに応じた。そのため、ゼンレン王国も応じると思っていたが、国王は戦争を止めるつもりはないと主張した上で、すでに和平案に同意していた国境付近の街を攻めた。ルシュタト王国の協力を得て、トクサ達はゼンレン王国の王城を完全に手中へおさめ、その時にトキを見つけたらしい。
「ゼンレン王国は共和制へ変わる。国王はヤマブキの森のほうへ逃げたらしいが、何も持たない状態だったから、おそらく途中で息絶えてる」
 反王国組織があったことにも驚いたが、自分が知らない間に世界は大きく変わっていたことにも驚く。トキは一人、取り残されたような気持ちになった。
「精霊使いや精霊達は皆、おまえのことを知っていた。学園で最も優秀な精霊使いだと」
 トキはうつむき、かすかに首を横に振る。
「……何があったかは聞かない。学園とは名ばかりの組織も今回の活動で潰した。あの学園長はただの強欲な商人だ。精霊達だけでなく、人間も売り物にしていた」
 トクサは優しくトキの長いブロンドの髪をなでたが、トキが気づくことはない。
「ゆっくり休んだほうがいい。手が必要な時は、これを鳴らしてくれ」
 トキの手の平に鈴が置かれる。トキは何とか礼の言葉を述べた。心に大きな穴がある。その穴がどんどん大きくなっていく感覚に、トキは体を震わせた。

 このままではいけないと思った者達が集い、行動を起こした。国王を失ったゼンレン王国は迷走していたが、共和制を推進する人間達が、反王国組織とともに体制を整えようとしている。トクサは時間を作っては、反王国組織の拠点となっている宿屋の一室にいるトキへ会いにきた。
 トクサの顔は見えないものの、彼が語る時、その表情が輝いていることは分かる。トキは彼の訪問を心待ちにしていた。組織のリーダーである彼は忙しく、トキの世話は組織内の人間が交代でしてくれる。だが、中にはトキをよく思わない者もいた。
 同じ精霊使い達は学園にいた頃から、トキを妬んでいた者も多い。学園一の力を持ちながら肝心な時に役に立たなかったトキを罵ったり、まだ満足に食べることすらできないトキの口へスープを流し込んだりした。悪質な嫌がらせは、時おり、度を越したものになったが、トキは以前よりはましだと思っていた。
 幽閉され、気を失うまで鞭打たれたり、ナイフで肌を傷つけられたり、アナルから出血しても犯されたりした日々に比べれば、トクサが力強い声で語る未来を聞ける今のほうが幸せだった。自分が役に立たず、それどころか、これから先は足手まといになることは分かりきっていた。だが、トキはどうしても、もう一度、ヒイロの森へ行きたかった。今の状況が落ち着いたら、トクサに頼めばヤマブキの森を一緒に越えてくれるかもしれない。
 淡い期待を胸に秘め、トキは体を凌辱されても、ひたすら耐えた。
「トキ」
 数日おきに顔を見せていたトクサが数週間ぶりに訪ねてきた日、機会は訪れた。
「大丈夫ですか? 疲れた声です」
 トクサが苦笑いして、深く長い溜息をつく。
「ヤマブキの森を緑化していくには、精霊王の力を借りる必要があると思うんだ。ヒイロの森へ行こうと考えた。だけど、今まで誰一人、戻ってきてない。精霊王が会ってくれるかどうか……」
 トキはほほ笑んで、自分の手を握り締めた。


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