karuna13/i | ナノ


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「学園へ戻れ」
 トキの震えが止まる。涙で濡れた瞳が虚ろに動いた。ハルカの言葉に、ユズリとイズが激しい口調で叫んだ。トキはゆっくりと立ち上がる。それがハルカの願いなら、トキは受け入れる。
 ハルカに触れたくて、手を伸ばした。だが、その手はさまようだけだ。やがて、トキは自分の手を握り締めた。
「……学園へ戻ります」
「トキ!」
 ユズリの声にトキはあいまいな笑みを浮かべてみせる。ハルカはヒイロの森を守りたいと言う。王国同士の戦争は回避すべきだと言う。学園へ戻れという一言に、そのすべてが集約されていた。
 不要になったからではない。ハルカはまだトキを必要としている。トキは自分がまだ役に立てることを嬉しく思った。泣くのは、ただ嬉しいからだ。トキは必死に自分の心をだました。学園へ戻るくらいなら、ここで死ぬほうがましだという気持ちを押し殺した。
 ハルカが命ではなく、視力を奪ったのは、まだ自分が必要だということに他ならない。聡いトキには、腕や足を奪わないハルカの意図が分かっていた。学園へ戻り、どちらかの王国へ仕え、戦争の火種を消してしまえばいい。五体満足なのは、己の体でどうにかしろということだ。
「ハルカ、ちゃんと役に立ったら、またここへ来てもいいですか?」
「……好きにしろ」
 冷たい返事に、トキの心はさらに傷つく。早くハルカに認めてもらわなければならない。トキはとても役に立つと思ってもらわなければならない。
「ミカミの街まで、連れていってください」
 むせび泣きたいのをこらえ、トキは明るく言った。再度、契約を交わしたいと言い募る精霊達の申出を拒否して、前進した瞬間に転んだ。息を止め、歯を食いしばり、立ち上がる。
 ハルカの名を叫んだ。心の中で、大きく、その名を呼んだ。今までなら、すぐに現れて、抱き締めてくれた。ハルカの腕を失ったことのほうが、視力を失うことよりも辛かった。
 父親から存在していないかのように扱われ、精霊王からは異質の存在だと言われた。トキは自分の存在意義をハルカにとって役に立つという価値観でもって、何とか得ようとしていた。立ち上がり、また歩き出したトキは、精霊達でさえ思わず視線をそらすほど痛々しかった。

 スィンに教えてもらい、トキはミカミの街に一軒しかない飲み屋の前に立った。スィンが気配を消し、森のほうへ戻ったことを確認してから、中へと入る。男達の不躾な視線や下卑た笑みを知ることなく、トキは静かに口を開いた。所持金内での支払いと体を自由にしていいという条件で、男達はヤマブキの森を案内してくれると言う。
 肩に食い込んでいた荷が消える。見えないから、怖くないと思った。木製のテーブルの上へ押さえつけられ、酒臭い吐息がうなじへかかった。指先から血があふれ、腹の下あたりが、ぎゅっと痛むような感覚に陥る。
 ハルカのそばにいるために必要なことだと繰り返す。オイルの代わりに酒をアナルへ注がれた。目の見えないトキ一人では、砂漠越えができない。精霊達との契約によって、まだ完全に成長していない細い体に、男達の手が這う。彼らに月と星の位置を確認してもらわなければ、学園へ戻ることはできない。学園へ戻らなければ、ハルカの役には立てない。
「っああ、や、は、ハル、アア、あ……っ」
 性急な男達の中の一人が、トキのアナルを犯し始める。初めての時のように激しい痛みに襲われた。ハルカの名を呼んでも意味がないことは分かっている。それでも、トキは光のない瞳から涙をこぼし、ハルカの名を呼び続けた。
 トキの長く伸びたブロンドの髪や白い肌、薄いグリーンの瞳からあふれる涙は男達を余計にあおる。さらに、まだ幼い、高めの嬌声は無垢なものを汚してしまいたいという嗜虐心を増大させた。


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