karuna11/i | ナノ


karuna11/i

 ひとまず背負っていた荷を置き、トキはその場に座った。空気が澄んでいるからか、体は疲弊していたが、気分はよかった。
 いたるところから聞こえてくるささやきのような精霊達の声は、ハルカの帰還を喜んでいるように聞こえる。呼応する自分の中の精霊達に、笑みをこぼした。契約を終わらせて解放してやれば、もっと喜ぶだろう。スィンから順番に契約解除の言葉を紡ごうとすると、扉が開いた。
「王様がお呼びです」
 来た時と同じように、案内役の精霊についていく。荷を背負っていない分、動きやすくなった。固く閉ざされている枝を組み合わせた扉が、生きているようにうごめくと、うろの中のような空間が広がる。
 トキは物珍しげに見てはいけないと思いながらも、うろの空間を見上げずにはいられなかった。幹の隆起でつまづいて倒れそうになると、すぐそばまで来ていたハルカが支えてくれる。
「ハルカ」
 ほほ笑んで見上げると、ハルカは表情を崩さない。精霊王の前で緊張しているのだと思い、トキは気にしなかった。うろの部屋は卵形になっており、天井まで隙間なく根が続いている。
 ほのかに漂う薄い白いもやは、おそらく精気だろう。ここは精霊樹の真下にあたる。トキは精霊王を見た。精霊王はハルカよりずっと若く見えるが、人型で現れる時、容姿は自由に変えられる。
 トキがひざをつこうとすると、精霊王は凛とした声で、「必要ない」と言った。ハルカと同じ黄金色の瞳は、この世界のすべてを知っているかのように、理知的な輝きを放っていた。
 トキは必要ないと言われても、ひざをつく。それから、額をつけるように上半身を伏せた。謝罪の言葉が浮かばない。自らの手で犯した罪ではないが、祖先の罪はあまりに大きく深い。
 この森を見れば、祖先達が激しい炎を使い、森を焼いたことは明白だった。何十年とかけなければ、ヤマブキの森のような砂漠地帯はできない。トキは命をもっても償うことはできないとさえ思えた。
「立ちなさい」
 精霊王は白に近い銀色の髪を揺らした。トキの視線へ合わせるように屈んでいる。
「美しい心だ」
 その言葉はトキではなく、ハルカへ向けられていた。トキは何を言っていいか分からず、ただ沈黙した。ハルカがそっと手を取り、手の甲にある印を隠していた手袋を外す。
「先に精霊達を解放してくれ」
 トキは頷き、解除の言葉を唱えた。十二もの精霊達が次々に人型で現れる。トキの肌からは印が消えていった。最後にハルカとの契約を切ろうとすると、スィンが怒ったように言った。
「ダメだ!」
 ユズリとイズもトキを囲む。トキはわけが分からず、精霊達を見上げた。
「僭越ながら、次期国王様……」
 スィンがまっすぐにハルカを見る。
「あなたの対価が何か、トキに話すべきです」
 トキはスィンの背中で見えないハルカを見るため、そっと前に出る。
「スィン、俺達は契約時にもそれが終わる時も、君達が何を対価に求めているのか、知ることはないよ」
 体力や生命力といった目に見えないものを求められても、見えないものだから分からない。
「だからです。だから、トキはちゃんと知るべきです。精霊王との契約は一部の力では済まない……」
 スィンは消え入るような声で言った。契約を交わしていた精霊達は皆、一様に悲痛な瞳でトキを見つめている。トキはハルカだけを視界へ映した。ハルカは笑みをこらえるように、口元を手で押さえている。


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