edge 番外編17/i | ナノ


edge 番外編17/i

「きっと、いや、絶対、母親だ。あいつの母親が虐待してるんだ。俺は知らない」
 取り乱す敬也を見ながら、一弥は溜息をついた。
「母親から暴行されたとして、和信はどうしておまえを頼らない?」
 言葉に詰まっている敬也へ、さらに言い募って追い詰めたいと思った。だが、一弥は和信のアナルが傷ついていたことは言わないことにした。今の反応を見れば、敬也こそ暴力を振るっている張本人だと分かる。個室の外に控えている部下に合図を送り、一弥は敬也のことを強制的に外へ出した。
「和信は自分の意思で来た。おまえのところには戻らない。理由は自分でよく分かってるだろ?」
 一弥は部下の一人に敬也を家まで送るように指示を出した。携帯電話から永野へ連絡を取り、和信が会社をクビになった原因を探るように伝える。体調不良が原因だと本人は言っていた。だが、体調不良が続いていたとしても、契約期間内に切るというのはおかしい。一弥は敬也が一枚噛んでいると予想していた。

 二時間ほど経った頃、田畑から内線が入った。窪田という名前を聞き、一弥は送らせたついでに脅しをかければよかったと思った。門前払いにしようとしたところ、田畑が、「先ほどの方とは違う方ですが……」と教えてくれる。
 受付にいた男は確かに敬也ではなかった。一弥が声をかける前に、大柄な男は頭を下げた。
「窪田朝也です。多田和信は兄の同居人なんですが、連絡が取れなくて困ってるんです。こちらで尋ねるのは筋違いかもしれません。でも、何か知りませんか?」
 まったくタイプの違う兄弟だと思った。一弥は敬也と同じように個室へ案内し、ソファへ座るようにすすめる。だが、彼はなかなか座らなかった。
「どうぞ」
「あの」
 緊張した面持ちでこちらを見てくる朝也は飼い主を見失った犬のように見える。
「和信、どこに行ったか知りませんか? 俺、謝らないと。ひどいこと、言ったから……」
 肩を落とした朝也は、ようやくソファへ座った。
「さっき君のお兄さんも来た」
「え? 兄貴が?」
 頷いて、敬也へ言った言葉と同じように、和信には借金はないと教える。すると、朝也は青ざめた表情になった。
「あの、兄貴には和信の居場所が分かっても教えないでください」
 どうしてか、と視線で問うと、朝也は緩く首を横に振る。
「兄貴は暴力を振るって、和信を傷つけてるんです。和信はあの部屋を出ないといけない」
 一弥は自分の予想が当たったことを苦く思いながら、朝也にメモ帳を差し出した。
「君の連絡先を書いて。連絡しないかもしれないけど、和信へ渡しておく」
 朝也が顔を上げて、瞳を輝かせた。
「あなたのところにいるんですか?」
「あぁ」
「俺が謝りたいって言ってたって、伝えてもらえますか?」
 一弥が頷くと、朝也は立ち上がり、腰を深く曲げた。
「ありがとうございます」
 朝也をエレベーターホールまで見送った後、一弥は報告書へ再度目を通した。朝也はWG社へ就職予定のようだ。兄である敬也もそこそこ名の知れている国内企業で働いているが、外見だけではなく、性格の違いも明確だった。朝也の書いたメモを財布へしまう。今夜はドクターが訪れるため、定時で上がろうと仕事を進めた。


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