edge 番外編16/i | ナノ


edge 番外編16/i

 年明けからしばらくした頃、和信から連絡が入った。定時を過ぎていたが、雑務が残っていたため、一弥は残業していた。翔太に頼んで、平川への取り立てはやめてもらい、代わりに去年のうちに自腹で彼の借金を立て替えていた。貴雄は最初に言った通り、すべてを一弥の判断に任せてくれている。
 携帯電話が震え出し、一弥はフロントへ向かった。ずぶ濡れで青い顔をしている和信を見た時、腹の底が熱くなった。体の傷痕が気になり、永野へ調査を続行させていた。体を使って金を得ていないなら、誰から暴力を受けているのか。一弥は徐々に彼の置かれている状況を把握していた。
 和信は吐血しても、まだ彼自身で払うと言い張る。一時的なストレスから血を吐いただけだろうが、とにかく今は休ませてやらなければ、と思った。視線を彼の高さに合わせて屈み、言い聞かせるように言う。
「和信、その話は今はしなくていい。悪いようにはしないから、まずは体を治そう、な?」
 すると、和信は瞳を揺らしながら、幼い子どものように頷いた。危うい、と一弥はその姿を見て感じた。
 貴雄には電話で話を通していた。玄関先まで出てきた貴雄は、和信を紹介すると頷き、すぐに下がった。一弥は和信を客室へ案内する。濡れタオルで顔を拭いてやろうと、準備した。客室のベッドの上で、すでに和信は眠っていた。
「……ここへ連れてきたこと、怒ってるか?」
 開け放していた客室の扉から、静かに中へ入ってきた貴雄に問うと、彼は首を横に振る。
「おまえを信頼している。おまえが助けたいと思った人間は、俺にとっても大切だ」
 インターホンが鳴り、貴雄が扉を開けに出てくれた。一弥は眠っている和信の顔を濡れタオルで拭いながら、貴雄の言葉に口元を緩める。ドクターを連れてきた貴雄は、そのまま留まり、ドクターの指示通り、和信の体を動かすのを手伝ってくれた。
 一弥は亡くなった両親のことを思い出せない。幼い頃、幸せだったかどうかもあいまいで、両親からの愛情というものがどんなものか、うまく説明できる自信はない。だが、その愛を知らないほうがまだましなのではないかと思うほど、和信の体にある傷はひどい状態だった。
 ドクターの話ではこの短期間に受けたもの以外の傷もあるということだった。永野に調べさせているが、やはり平川か母親、あるいは同居している敬也から暴力を振るわれている。怒りで拳が震えた。一弥の拳を貴雄が重ねるようにして握ってくれる。
「冷静になれ。おまえが苦しんでも、原因を突き止めて、それを立ちきらない限り、彼の痛みは変わらない」
 一弥は和信が目を覚ましたら、なるべく明るく接することを考えた。

 内線を取った一弥は、窪田という名前を聞いて、すぐに田畑のいる受付へ向かった。すらっとした体躯の男は端正な顔を醜く歪めている。和信に暴力を振るっている相手が彼とは特定できない。だが、彼らがただの同棲生活をしているわけではないと分かっている。もし、和信が平川や母親から暴行を受けていたとして、彼の体がどんな状態か知らないというのは不自然だ。
 ソファに座るようにすすめると、窪田敬也は、「さっそくですが」と切り出した。
「和信を返してください。あいつの借金は俺が払います」
 一弥はスーツのポケットから煙草を取り出す。敬也が嫌そうな表情を見せたが、気にせず火をつけて、煙を吐き出した。
「多田和信に借金はない」
「……じゃあ、何でおまえのところにいるんだ!」
 立ち上がって威嚇した敬也を見て、オフィスから中を見ていた部下達が入ってこようとする。一弥は組んだ足を動かすことなく、視線だけでそれを制した。敬也をあおるようにゆっくりと煙を吐き出す。
「和信のケガは全治一ヶ月だ。過去数ヶ月に渡る傷痕も残ってるんだが、窪田さん、あなたは何も知らないんですか?」
 敬也はぎこちなく腰を下ろし、「知らない」と言い張った。


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