edge 番外編14/i | ナノ


edge 番外編14/i

 貴雄の隣に腰を下ろすと、彼の手が腰に回ってくる。視線は平川との契約書に落とされたままだった。
「……上野の担当だな」
「はい」
 貴雄が視線を上げて、こちらを見た。
「おまえが回収したいのか?」
 驚いた一弥に貴雄がもう一度、聞いてくる。
「個人はダメなんじゃ……」
「ダメとは言わない。ただ、おまえが感情移入し過ぎて、あとで辛くなると思ったから、法人へ回した。それにおまえは海千山千の連中に気に入られるからな。法人相手のほうが向いてると判断しただけだ」
 バインダーを閉じた貴雄は、一弥へそれを渡す。
「好きにやってみろ」
 一弥は貴雄が自分へ仕事上でも信頼を寄せていることを知り、感激していた。組織内の男達がどうして貴雄を崇拝するがごとく尊敬しているのかよく分かる。褒められて嫌な人間など一人もいない。さらに任せると力強い言葉をもらい、やる気の出ない人間もいないだろう。
「永野(ナガノ)に調査依頼をかけたんだって?」
 一弥は部下に和信のことを調べるように頼んでいた。今日の出来事を簡単に説明すると、貴雄は軽く頷く。
「そうだな。上野の言うことが正しい。おそらく俺も、その男から回収する」
 一弥は何と言っていいか分からず、うつむいた。
「ひとまずこの件に関してはおまえに委ねる。その男が気になって、助けたいなら、おまえのやり方でやればいい。俺は口出ししない」
 うつむいていた一弥の顔を、貴雄が指でなぞった。顔を上げるとキスを受ける。
「浮気はダメだぞ」
 貴雄の瞳は真剣そのもので、一弥は思わず笑った。

 喫茶店に入った瞬間、和信を見つけて、一弥は彼の顔色の悪さに小さく息を吐いた。永野に依頼していた調査報告書を読んで、できればもう和信から連絡がなければいいと考えていた。彼の借金ではないのだから、彼は彼で自立して生きればいい。報告書に書かれていた彼の人生は幸せとは言いがたいものだった。
 和信の母親は決して大きな金額ではないが、借金を繰り返しており、男に頼るような生活をしている。和信が高校からアルバイトを始めると、その金もあてにしていた。彼は家を出てからも、母親へ毎月いくらか渡している。時おり、スロットをしているが、彼自身にはまったく借金がない。この一年ほどは窪田敬也という同居人と生活し、安定しているようで、四月からは正社員の話も出ていた。
「あの、早速ですけど、俺、毎月……」
 コートを脱いで、店員へパフェを注文した後、和信がさっそく切り出した。
「話した?」
「え?」
「ちゃんと母親や平川と話した?」
 瞳をとらえようとすると、和信は自らこちらを見てきた。だが、その表情に焦りを見て、一弥は嘘を見抜いた。不要にもかかわらず、彼が給料明細を渡してくる。彼は月に五万ずつなら、と苦笑いを浮かべる。一弥はわざと厳しく冷たく言い放った。
「話にならない」
 だから、おまえは関わらなくていい、と言いたかった。だが、もちろん、決定権は和信にある。一弥はこらえて、五万ずつ半々で取り立てると提案した。途端に、「ダメです!」と彼が声を荒げた。


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