edge 番外編6/i | ナノ


edge 番外編6/i

 いつの間にか眠っていたらしい。隣にあった温もりは消えており、貴雄はベッドの上で大きく体を伸ばした。シャワーを浴びようと、リビングダイビングを通ると、カウチソファに座り、煙草を吸っている一弥を見つけた。
「おはよ」
 一弥からのあいさつに笑みをこぼしながら、返事をする。彼はすでにシャワーを浴びていた。
「何か食ったのか?」
「まだ。何か作っとく」
 最近、一弥はマサから料理を習い始めた。料理とはいっても、まだ切って焼く、切って煮る、程度のものだ。だが、本人は至って真面目に学んでおり、貴雄は夕食が味の薄い、生の野菜炒めであっても、黙って食べていた。
 マサに会った時、「飲食業に従事していても、料理が下手なことはままあるんだな」と告げると、マサは驚愕の表情を浮かべていた。
「あれ、食ってるんですか?」
「食ってる」
「マジですか?」
「マジだ」
 マサは貴雄のことだから、てっきり、「こんなまずいもの、食えるか!」と率直な意見を一弥へ伝えると思っていたらしい。おいしいかどうか聞かれないため、貴雄はまずいと思っていても食べている。それを聞いていた山中が、「それは後で絶対に尾を引くケンカになる」と言っていた。
 テーブルの上に並んでいたのは、スライスチーズをのせたトーストと、ハムエッグだった。焼くだけのため、これはまずくなりようがない。貴雄は一弥と向かい合って座り、ブラックコーヒーを飲んだ。
 同じように働いているにも関わらず、こうしてキッチンに立って用意してくれるのだから、気軽に、「おまえの料理なんだが……」とは切り出せない。それに貴雄としては、別に料理がまずくても気にならない。一弥が最優先だからだ。
 食べ終えた後、一弥が食洗機へ食器を入れるのを手伝い、キッチンに立っている彼をうしろから抱き締めた。最初に抱き締めた時より、筋肉のついた体は、自分の腕にぴったりと合う。うなじへ鼻を擦りつけると、彼が身をよじった。
「発情期なのか?」
「そうかもな。俺の細胞が子孫を残せと全力で指令を下してる」
 笑いながら言うと、一弥も笑っていた。
「俺の中に出しても、絶対に子孫は残せないぞ」
「はらむまでやればいいかもな」
 貴雄は一弥が無駄口をたたく前に、彼の体を自分へ向けて、そのくちびるをふさいだ。口内をむさぼりながら、彼のシャツを脱がせる。一度、くちびるを解放すると、彼は手の甲で唾液を拭った。瞳が状況を楽しむように光っている。
 一弥の体を抱えてカウチソファへ座った。この二年、数え切れないほどセックスをした。一弥の口からは一度も、「好き」も「愛してる」も聞けない。だが、それは自分も同じだった。
 差し出した指先を、一弥が口へくわえる。唾液で十分にアナルを解した後、勃起しているペニスを彼の中へ挿入した。夜はコンドームをつけることが多いが、休みの日はあまりつけない。すぐにシャワーを浴びられるからだ。
 昨晩、受け入れてくれた一弥のアナルは、いい具合に締めつけてくる。貴雄がソファに座り、その上で、向き合う形で腰を動かした。貴雄はここでするのが好きだった。一弥と向き合える上、彼の背中がテレビの画面に映るからだ。彼が自分の隣という場所を守るために彫らせた証だった。
 目の前の乳首を口に含み、貴雄は一弥の体を揺さぶる。切なげに自分の名前を呼びながら、ペニスを張り詰めさせている彼は、これまで抱いた誰よりも美しかった。
「一弥」
 一弥のアナルが収縮し、貴雄は彼の中で精を吐き出す。愛していると伝えたくなる瞬間だった。
「そばにいろ」
 大きな呼吸を繰り返していた一弥が、貴雄の体を抱き締める。
「……うん」
 いつも向こう見ずで、人一倍傷つきやすいくせに、人前では耐える一弥が少し甘えてくれる時、貴雄は胸が締めつけられる。守るなんて傲慢なことは言えない。貴雄はいつまでも彼が休める居場所でありたいと、ただそう思った。


番外編5 番外編7(一弥視点)

edge top

main
top


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -