edge 番外編1/i | ナノ


edge 番外編1/i

 翔太(ショウタ)は兄貴分であるマサに頼まれていた仕事を終えて、事務所へ戻った。事務所と言うと怒られるが、翔太は会社という言葉に慣れない。
 三十階建ての高層ビルは会社と呼ぶにふさわしい。ここへ出入りしているのは共永会の人間だけではなく、各階に入っているテナント企業で働く人間も含まれる。皆、スーツを着ていたり、オフィスカジュアルな格好をしており、ジーンズ姿の自分は少々浮いていると思うのだ。
 共永会という組織がこの高層ビルの高層階とその下の階を借りて経営しているのは、貸金業と土木建設業という二つの異なる会社だった。
 会議室と書かれた扉を開けて、中へ入ると、マサが手を上げた。
「おう、お疲れさん」
 マサは他の連中と話し込んでいたが、立ち上がり、翔太を労ってくれる。翔太は夜の街へ繰り出しては、くだらないことをしていた。あり余ったエネルギーが悪い方向へばかり向かっていて、自分でもどうしようもなかった。
 マサを始めとする共永会の男達と出会ったのはその頃で、出会って以来、翔太はマサを頼りにした。彼は成人を迎えたばかりの翔太より、五つほど年上だった。だが、上からの物言いはせず、友達のように接してくる。
 何より、翔太がマサを慕った理由は彼の手料理にあった。調理師免許を持っている彼は料理上手で、時々ごちそうしてくれる。
「翔太、メシまだだろ?」
「はい」
 十九時を回ったところだった。手料理をごちそうしてくれるかもしれない、と期待していると、椅子に座っていた男達が一斉に立ち上がる。振り返ると、社長である貴雄が顔をのぞかせていた。
 貴雄のことは数度、見かけたことがある。貸金業のほうを仕切っており、そちらの従業員は組員だけで構成されている。土建業のほうは人を雇っていると聞いたことがあったが、下っ端の翔太には詳細は分からない。
「おまえら、久しぶりにメシ行くか?」
 声をかけられた男達は、マサも含めて名誉であるとばかりに頷く。貴雄は気取らない、信義に厚い男だと皆から聞かされている。二年ほど前、同じ舎弟組織にあたる清流会、仁和会と諍いがあった際に、組員不足になったが、今や親組織である市村組にとって、共永会は屋台骨になっている。
 翔太はこっそりと貴雄を見た。彼は長身で威圧感があり、スーツの下には鍛え上げられた体が隠れていることが分かる。だが、皆が言う通り、その鋭い眼光で分別もなしに睨みを効かせるほど程度の低い人間ではなかった。
 男が惚れる男というのは、こういう人間なのだろう。翔太は憧憬のまなざしで貴雄を見つめていた。現実へ戻したのはマサの声だ。
「こいつも連れてっていいですか?」
「……新入りか?」
「もう半年になるかな、なぁ、翔太?」
 とつぜん話しかけられ、翔太は返事ができず、ただ頷いた。貴雄の怜悧な視線が一瞬、上から下まで行き来し、そして、彼は瞳に親しみを込めて言った。
「別に構わない。ここへ出入りさせてるなら、おまえの判断力を信じる」
 貴雄はマサへそう言い、マサは翔太の肩を叩いた。

 日本料亭のような外観の店へ、マサへ続いて入ると、本館ではなく別館へ案内された。案内してくれる店員の服装がチャイナ服であるのを見て、翔太は中華料理店だと理解する。石畳の上を歩いていくと、六角形の形をした個室があった。
 中ではすでに幹部の人間が飲んでいた。翔太は末席に座る。幹部の人間は三人いた。メガネをかけているのは山中で、大柄な男は高藤(タカフジ)と呼ばれていた気がする。貴雄の隣に座っているのは、「一弥さん」だ。
 翔太は初めて彼を見た。マサや他の連中から何度も聞かされている。貴雄の大事な人だ。そして、共永会幹部の人間でもある。一弥はどこにでもいそうな一般人にしか見えない。髪はサイドが長めで、時おり、髪を耳へかける仕草をする。特別にきれいでも可愛いわけでもなかった。


50 番外編2

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