edge33/i | ナノ


edge33/i

 貴雄の腕の中で絶頂を迎えた一弥は、目を閉じる。貴雄はいつもなら三度は挑んでくるが、今日は一回だけで終わった。彼は一弥の隣へ寝転がり、左腕に一弥の頭を乗せるようにして、体を休めている。
「話をそらすのがうまいな」
 貴雄は苦笑して、一弥の髪にキスをした。まだ乾いていない頬に残る涙の痕を、少し乱暴に拭われる。
「おまえが女なら、既成事実を作ってしまえるのにな」
「……俺は女じゃない」
 一弥が小さく言うと、貴雄は、「分かってる」と一弥のペニスを軽くなでた。
「だから、無理やり犯ってしまえばいいかと思ったんだが、思い通りにはいかないもんだな」
 苦笑していた貴雄はそこまで言ってから、急に真剣な面持ちになる。
「だが、今回のことは本当に悪かったと持ってる。だから、色々と考えたが、やっぱりおまえを手放すことはできない」
 色々考えたというのは、おそらく距離を置くとか、清流会への報復のことだろう。一弥が貴雄を見上げると、彼もじっとこちらを見下ろしていた。
「……宮崎は必ず潰す」
 黒い瞳に憎しみの炎が宿る。一弥は貴雄の胸を押して、起き上がった。
「やめろよ、俺は気にしてない」
 市村組の中での貴雄の立場を考えて言葉にした。だが、貴雄自身はその立場について気にしていない様子だ。対等でなければ意見は聞かないと言っていたくせに、彼は一弥の言葉に笑みを見せた。
「心配するな」
 貴雄もベッドに座ると、すぐに立ち上がった。その背中には唐獅子と赤い牡丹がある。寝室から出ていった貴雄を視線だけで見送り、一弥はベッドへ倒れ込んだ。腹の上や股の間はローションと自分の精液で濡れている。
 洗い流しにいこうか考えていると、煙草を吸いながら、貴雄が戻ってきた。彼は手にウェットティッシュのボックスを持っている。
「シャワーのほうがいいか?」
 起き上がることが面倒でだるかったため、首を横に振ると、貴雄は煙草を口にくわえ、ボックスからウェットティッシュを数枚、取り出した。ひんやりとした感触に体が強張る。
「自分でやる」
 一弥は起き上がり、自分の手で汚れを拭った。拭き終わった後は貴雄がゴミを回収してくれる。セックスの後は毎回、疲れて眠っていた。今まで、彼がどんなふうにきれいにしてくれていたのか分かり、一弥は頬が熱くなるのを感じた。
「煙草は?」
「いい。もう寝る」
 恥ずかしくて、背中を向け、横になると、貴雄の手が肩へ触れた。毛布をかけてくれたのだ。
「おやすみ」
 貴雄は照明をしぼった後、出ていった。出ていった後、一弥は静かに、「おやすみ」と口を動かした。

 朝、起きるとすでに貴雄はいなかった。リビングへ行くと、マサがキッチンに立っている。
「おはよう」
「おはようございます」
 振り向いたマサの左目の下には紫のアザができていた。一弥が驚いて足を止めると、彼は隠すように背を向ける。
「マサ、それ……」
「あー、俺のミスです。一弥さんは全然関係ないことなんで、大丈夫です」
 全然関係ないと言われても、一弥には思い当たることがある。昨日の今日なのだから、当然といえば当然だ。
「俺が止めるのも聞かずに市村組に行ったからだろ?」
「違いますって」
「あいつが殴ったのか?」
「違いますって」
 否定するマサに一弥は諦めずに尋ね続ける。やがて、根負けしたのか、彼は振り返ると、大きな声で言った。


32 34

main
top


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -