edge32/i | ナノ


edge32/i

 みじめな思いはしたくない。一弥は言葉を飲み込み、笑ってみせる。
「清流会にいくら払った?」
 あえて尋ねるが、貴雄はもちろん言わなかった。
「おまえが気にすることじゃない。俺が巻き込んだ。金のことも他のことも気にするな」
 貴雄の手が一弥の体をつかみ、彼のほうへ引き寄せる。彼は一弥を抱えると、くちびるにキスを落とした。
「悪かった」
 真摯な瞳が一弥を見下ろしている。そっと手を伸ばして、彼の顔に触れる。敬司は自分達を似た者同士だと言っていた。彼もまた両親を亡くしているのだろうか。
「おまえから誘ってくるとはな」
 貴雄は嬉しそうに笑う。
「誘ってるわけじゃな……っん、あ」
 貴雄にくちびるを奪われる。彼は熱い舌で一弥の中を犯す。ビールを飲んだばかりの彼の舌は苦かった。手首をつかまれた状態でキスを受けていると、彼が体を抱え上げて、立つ。
 寝室へ運ばれ、一弥はベッドの上で自ら服を脱いだ。貴雄も全裸になり、ローションやコンドームを持ってくる。誘っているわけではない。彼がまだ自分を求めているという確信が欲しい。そして、何も考える必要がないくらい、行為におぼれてしまいたかった。
 貴雄は手の平にローションを落とし、指先に絡めて、一弥のアナルや尻の周囲をなで回す。開脚した状態のまま、一弥はその指先の動きに合わせて、呼吸を繰り返した。薄く目を閉じていると、時おり、貴雄がくちびるや額にキスをする。そのくちびるは乳首の上を通過して、脇腹へ至った。
 くすぐったい感じに身をよじると、貴雄の指先がアナルへ侵入した。落ち着けとでも言いたげに、彼は左手で一弥の頬をなでる。目を開くと、彼は優しくほほ笑み、アナルの中で指を動かした。
 慣れなくてはいけない、とは思わなかった。義務感はまったくない。ただ貴雄のことを感じたいと思った。貴雄の与えてくれたものは、あの男達とは違う。もう一度、彼に上書きしてもらえれば、忘れることができるのではないかと思った。
 一弥の気がアナルへ集中しないように、貴雄は左手とくちびるを使い、一弥の体中を愛撫してくれる。それは一弥のペニスにも及んだ。
「ん、ぁ、アァ」
 ペニスを扱かれると、直に快感がせり上がってくる。いつの間にか二本に増えた貴雄の指がアナルの中でうごめいた。貴雄は一弥の前立腺を突いてくる。異物感は前への刺激のせいで薄れ、しだいに気持いいと思っている自分に気づく。
 一弥の体がリラックスすると、貴雄は指を三本に増やした。先ほどまでは緩く動いていた指先が円を描くように大きく動く。貴雄が執拗にアナルを解してくれることに対して涙がこぼれた。痛がっていると思われたのか、彼はすぐに動きを止める。
 手を伸ばして、貴雄の左手を握った。彼は一瞬、目を見開いたが、すぐに安らぐ表情を見せる。あふれた涙は彼が自身のペニスへコンドームを被せて、一弥の中へ侵入してきた時もとまらなかった。
 痛くて泣いているのではない、と伝えると、貴雄がゆっくりと動き出す。彼の起こす律動に体を揺すられながら、一弥は弘蔵相手に気張っていた精神をようやく解放することができた。
 弘蔵だけではない。清流会の仕打ちもこたえている。ただ一弥の場合、苦痛や苦悩はなかなか表には出てこないだけだった。貴雄にすべての感情を吐露できるわけではないが、少なくとも、彼の前では飾らないでいられる。
 傍から見れば、自分は流されているだけのように見えるだろう。あるいは金目当てに見えるかもしれない。元をたどれば、貴雄に無理やり犯されたことになる。極限まで追い詰められて、彼しか頼る人間がいないから、こうなったのだと言われればそうだろう。
 それでも、一弥は貴雄の手を握っていた。また一人ぼっちになるくらいなら、と考えている自分がいる。この居場所をくれるなら、彼の手を取る。その代わり、一弥には自分が選んだという証が必要だった。貴雄の隣に立てる人間であることを証明する必要があった。


31 33

main
top


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -