edge17/i | ナノ


edge17/i

 うしろで男達がばらさないかと気がきでない様子であることは、振り向かなくても分かる。一弥は貴雄に話すつもりはなかった。告げ口みたいな真似をするのは卑怯だと思うからだ。
 だが、代わりに貴雄を軽蔑するように見上げた。人の上に立つ人間なら、部下をきちんと束ねなくてはならない。彼らを引きつける存在感や独特の魅力を持っている男なら、彼らを従わせるだけの力も身につけなければ、見かけ倒しの人間ということだ。
 一弥の瞳に含まれた冷笑に見入った貴雄は何かに気づいたかのように、一弥のうしろに並ぶ男達を見た。
「誰だ?」
「お、俺達が見つけた時にはもう……」
 一人が声を上げると、他の男達も頷く。貴雄は山中へ視線を向け、頷いた。山中が男達を連れて部屋を出ていく。立っていることも辛かった一弥は、彼らが消えてからようやく、その場にへたり込んだ。
 うつむくとフローリングの床に涙の雫が落ちていく。気を張っていた体や意識が、糸の切れた状態になり、自然と涙があふれた。伸びてきた貴雄の手を払い、その場で泣き続ける。
 山中に命令され、薬などを買ってきた男が入ってこようとしたが、貴雄に睨まれ、袋だけを置いて出ていく。貴雄はその袋を取りにいった。
「一弥、名前は分からないだろうが、顔は覚えているんだろう?」
「……知らない」
 一弥がかすれた声で告げると、貴雄は目の前にあぐらをかいて、消毒液のふたを開けた。
「知らない、か。まぁ、いい。おまえをこんな顔にした奴らも、それを見ていたあいつらもちゃんと落とし前つけさせるからな」
 貴雄のほうへ視線を上げると、彼は苦々しく笑う。
「もう、俺のこと、放っておいてくれ」
 一弥がそう言うと、貴雄は消毒液を染み込ませたガーゼを切れているくちびるへ当てた。
「つ、ぅ」
 ガーゼはくちびるから、擦り傷になっている頬へ移動した。貴雄は一弥の言葉にこたえてはくれない。
「金も返せ」
 懸命に貯めた金のことを思い出して口にすると、塗り薬や包帯を取り出していた貴雄が無邪気に笑った。
「俺が憎いか?」
「当たり前だろ」
「おまえからすべてを奪ったが、すべてを与えてやることができるのは俺だ」
「馬鹿じゃないのか」
 貴雄の言葉の持つ意味に気づき、一弥は怖くなる。だから、彼を馬鹿にした。彼のそばにいると危険だ。彼は一弥の怯えを見抜き、凄艶な笑みを浮かべた。
「一弥、おまえの命は俺のものだ。おまえにも奪わせない」
 いったい貴雄の執着心はどこから来るのだろう。ケガをしているというのに、彼は一弥のくちびるへ激しいキスを仕掛けてきた。切れた部分の痛みと息苦しさに、一弥が声を漏らすと、彼は興奮しているのか、猛った中心を押しつけてくる。
 誰のせいでこうなったのか、考えるまでもないが、一弥は床へ押し倒されながら、憤りと心ゆるびの間で揺れた。ここを出て外へ出られた時の開放感の後に感じた、縛られてしまいたいという欲望は、居場所のない自分の弱さだ。
 このままでは貴雄の狙い通りになってしまう。抵抗しなくては、と思う反面、今の状態では抗えないとも思う。以前にも感じた貴雄の優しさを、一弥は今も感じていた。ケガをしていて抵抗できなかった。自分への言いわけにはぴったりだ。
 覆い被さるようにして、一弥の全身にキスを落としていた貴雄は、一弥をそっと抱えると、ベッドへ寝かせた。そこで手当ての続きを再開する。あのまま抱かれると思っていた一弥の視線に気づき、貴雄は心外そうに言った。
「ケガしてる奴を無理に抱く趣味はない」
 手当てを終えた貴雄が、ペットボトルの口にストローを入れた水を運んでくる。
「煙草は?」
 一弥が首を横に振ると、貴雄は照明をしぼって薄暗くした後、毛布を一弥の肩までかけて、寝室の扉を閉めた。一弥は複雑な心情を抱えながら目をつむった。


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