edge12/i | ナノ


edge12/i

 元々はおまえが勝手にしたことだろう、と思った。だが、一弥はただ嘆いてるばかりの人間ではない。
「そんな言葉で俺が大人しく従うと思ってないだろ?」
 一弥がそう言うと、貴雄は吹き出す。
「そうだな」
 貴雄は食べ終わると、惣菜のパックや割り箸をゴミ箱へ捨てた。新しいビールを取り出し、煙草を探す。寝室から戻ってきた彼は、椅子に座り、煙草へ火をつけた。一弥はサラダを口へ運びながら、つい彼の持っているビールへ視線をやる。
「何だ、飲みたいなら飲めばいいだろ」
 視線に気づいた貴雄に言われたが、彼の金で用意したものに手をつけるのはためらわれる。すでに手をつけているサラダや着ている服は仕方ないと考えた。
「飲ませてやろうか?」
 よからぬことを考えている表情で、貴雄が尋ねてきた。
「いい」
 断ったのに、貴雄は立ち上がり、新しいビールを取り出した。
「いい、いらない」
 一弥が身の危険を感じて椅子を引き、逃げようとすると、貴雄があっさりとテーブルにビールを置いた。
「冗談だ。飲め」
 色々と思うところはあったが、一弥は安い発泡酒くらいしか口にできない生活だったため、欲望に負けてビールを取った。室内は自動で空調機が動くらしく快適だが、冷えたビールは蒸し暑い季節には何よりもおいしい。
 一弥は半分ほどを一気に飲み、立っていることに気づき、もう一度椅子へ腰を下ろした。煙草さえあれば、一弥は何時間でも飲める。貴雄と同じように煙草に火をつけて、ビールを飲んだ。
 空になる前に、貴雄がビールを出してくる。会話はなかったが、しだいに体へアルコールが回ると、気分がよくなった。できれば関わりたくない人間と関わり、こんなところに閉じ込められて、体を開かれた。それでも、自分には助けてと言える友人がいない。
 自分の人生は何だったのだろう。一弥はテーブルに肘をつく。右手で煙草のボックスをいじると、いつの間にか空になっていた。貴雄が彼の煙草を一本、転がしてくる。一瞥して、軽く頭を動かすと、彼は笑った。
「おまえが今、考えていることを当ててやろうか」
 一弥が煙草に火をつけて、最初の一口を吸うと、貴雄が口を開く。
「自分の人生がいかにくだらなかったか、だろ」
 当たっているだけに、何も言えない。無言で煙を吐き出す。
「自分の女でもない女のために、ここにいると言い聞かせてないか? 自己犠牲は尊いが、残念ながら、おまえのは自己犠牲とは違う。おまえがそう思いたいだけで、実際のところは、おまえが自分で自分の人生を見限ったんだ」
 だから、俺が拾ってやったと主張したいことは分かる。そして、それはもう聞いていた。一弥は自分が酔っていることを自覚しているため、貴雄の話を聞かないように目を閉じようと思った。酔った勢いで、そうかもしれない、と思い始めたら、彼の思うつぼだ。
 一弥は煙草を灰皿へ押しつけ、目を閉じる。椅子の音につい目を開けてしまいそうになるが、一弥は我慢した。しばらくすると、気配が消える。そっと目を開くと、彼は目の前にいた。
 驚いて声を上げたが、自分の声を聞くことはできない。貴雄がくちびるで口をふさいだ。後頭部を押さえられて、逃げたくても逃げられない。自由の利く足で彼の足を踏んだが、彼はそんなことでは動じない。
 アルコールの回った体ではいつも通りの力が出ないのに、気持ちだけは高ぶっていて、一弥はなぜか貴雄に勝てる気がしていた。実際の身長差や体重差を考えれば、それは不可能なことだった。
 一弥が足や手を動かして必死に抵抗するのを、貴雄が笑う。
「可愛いな」
 キスを受けている。それだけでも侮辱なのに、貴雄は言葉でも辱める。一弥は頭に血が上るのを感じたが、彼からの愛撫を振り払う力はなかった。舌で口内を犯された後、抱えられて浴室へ向かう。
 浴室で何をされるのかは分かっている。一弥が叫んでも、貴雄は解放してくれない。服を脱げと命令されるが、首を振って嫌がると、そのままそこへ押し倒された。彼が購入したばかりの服を引き裂くように脱がせる。彼の金で買ったものだ。自分には関係ない。


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