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 一弥の携帯電話に登録されている彼女の電話番号を確認していると言うのだ。
「確認したって仕方ないだろ?」
 素直な疑問を口にする。
「いや、もしサトウがあの女の携帯電話を持って逃げていたら、だいたいの位置は分かる。電波があるところなら、常にいちばん近くの基地局を探すからな。つまり、おおよその位置は分かるってわけだ」
「……そんなの、携帯会社に問い合わせでもしないと分かるわけない」
 個人レベルでその位置を把握できたら、大変なことになる。一弥が言うと、男が豪快に笑った。
「そうだな。だが、そういう情報を拾ってくる奴もいる。それがこっちの世界だ」
 財布を手にした一弥はわざと溜息をついて、近くの椅子に座る。ポケットから煙草を取り出すと、男が灰皿を回してくれた。
「どうも」
 サトウという男の居場所が特定できるまで帰してもらえなさそうだ。一弥は煙草を吸いながら、ぼんやりと明日の出勤時間に遅刻するようなことはできないと考える。社員である一弥が店の鍵を持っているため、遅刻すればアルバイト達に迷惑をかけてしまう。
 三本目の煙草を吸い終わる頃、スーツを着た別の男が入ってきた。扉を開けた別の男が彼のうしろへ続く。扉を開ける必要がないということと、今まで一弥の見張りをしていた男が頭を下げたことから、この男がそうとう上の立場の人間であるということは分かる。
 見張りをしていた男が耳打ちをした。自分の情報を伝えているのだろう。一弥は短くなった煙草を灰皿へ押し潰した。椅子に座ったままの状態で、入ってきた男を見上げる。
 男はかなりの長身だった。短く整えられた黒髪は清潔そうに見えた。着ているスーツも他の男達のものより上等だろう。足元へ視線を落とせば、高そうな革靴を履いていた。
 一弥はこの一見して位の高そうな男の登場に混乱しながらも、できればもう帰ってもいいと言って欲しいと思った。あまりにも長い間、座っているためか、痺れを切らした男達が一弥を立たせる。
「おまえは、腰が抜けてんのか?」
 少々ムッとして、一弥は右隣の男を侮蔑の瞳で見た。それから、目の前の男へ視線を移す。怖がる必要はない。自分が何かしたわけではないのだ。立ち上がっても、一弥の身長は男の胸のあたりまでしかなかった。
 仕方なく男を見上げると、「ガン飛ばすな」とうしろから頭を叩かれる。うしろを振り返り、自分を叩いた男の顔を見てから、もう一度、目の前の男を見上げた。
「俺、帰っていい?」
 男が何も言わないため、一弥は溜息をつく。
「明日、仕事があるから、帰りたいんだけど」
 周囲の男達が敬語を使わない一弥に冷や冷やしていることに、一弥自身は気づかなかった。
「仕事か」
 ようやく男が言葉を発する。
「説明してやれ」
 男が手近にあった椅子を引いて、足を組み、座る。彼の背後に控えていた男が、一弥に話を始めた。その間にも、扉から何人かの男達が出入りする。
「あの女が話した場所にサトウがいるかどうか確認が取れるまで、あなたを帰すわけにはいかない」
「俺は無関係だろ」
 一弥が声を上げると、男が勝手に一弥の煙草をボックスから取り出し、吸い始める。
「彼女は友達ですか?」
「……そうだけど」
「彼女は少しのケガで済みました。このまま拘束する旨を伝えたところ、あなたには心配する家族がいないと仰り、自分の代わりにしていいとのお話でした」
 驚きのあまり言葉をなくしていると、人の煙草をくすねた男が煙を吐き出しながら笑う。
「こちらとしても、身元不明の遺体が出るとすれば、天涯孤独の人間のほうがありがたい」
 恋心がここまで人を変えるのだろうか。一弥は男の言葉に唖然とする。これから後のことより、彼女が自分を裏切ったことに動揺した。


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