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edge3/i

 諭すように彼女へ告げると返事はなく、逆にメガネの男が言葉を発した。
「あなたは分かっているようだ。サトウの居場所を教えてもらえれば、お二人に迷惑をかけることはない」
 一弥は彼女の肩をつかむ。
「ごめんな」
 彼女の住所をメガネの男に言おうとすると、ジーパンのポケットをまさぐられた。彼女が一弥の携帯電話を素早く操作する。
「逃げて!」
 一弥にはわけが分からなかったが、メガネの男は他の男達に命じて、彼女の手から一弥の携帯電話を奪い、彼女を押さえる。メガネの男は不意に視線を胸元へ落とした。彼の携帯電話が鳴ったようで、彼は一瞬、迷った後、電話に出る。
「ちょっと」
 男達が彼女を車へ押し込もうとしたため、一弥が思わず声を出す。
「悪いがあなたも一緒に来てもらう。俺のボスは短気なんだ」
 無関係だと言いたいところだが、女友達を一人にするのもどうかと思う。考える暇もなく、メガネの男が一弥の背中を押した。
「ごめんね、巻き込んでごめんね」
 泣きながら謝られてももう遅い。行き先が分からないように、目隠しをされた。目隠しされると、恐怖が増す。彼女の泣き声が大きくなり、舌打ちの後、くぐもった響きに変わった。
 信号待ちの停車にしては時間が長いと思っていると、彼女がわめく音が聞こえた。そちらへ顔を向けると、メガネの男に誘導される。
「あなたはこっちだ」
 別の男の気配を感じると、そのまま腕を引かれた。おそらくエレベーターに乗せられ、何階かは分からないが押し出された。どこかの部屋へ引きずられ、そこでようやく目隠しが外される。
 一弥はまず隣の男を見た。屈強な男はスーツに身を包み、長テーブルの上にあった食べかけの弁当に手をつける。
「災難だったな。まぁ、座れよ」
 折りたたみ式のパイプ椅子に座った一弥は、おいしそうに弁当を食べる男を一瞥した。自分の見張り役だろうか。縦型ブラインドはすべて下りていたが、一弥はそっと立ち上がり、その隙間から外を見た。
 地上から十三階くらいだろうか。一弥は外の景色を見つめる。暗くてよく分からないが車の動き出した方角から、市内中心部だということは見当がついた。
「何か飲むか?」
 振り返ると、男がペットボトルを何本か取り出す。
「彼女はどこだ?」
 敬語で話したほうがいいかと思ったが、男が気さくに声をかけてくれたので、こちらもあえて普段通りに話す。男は気にした様子はなく、返事をした。
「下だろ。サトウの場所さえ言えば、別にケガもしない。俺達はそうそう一般人には手を出さないからな」
 一弥がそのまま窓際のパイプ椅子に腰を下ろすと、男が見覚えのある財布を長テーブルに置いた。中身を取り出してカード類を確認している。自分の財布とそっくりだと思い、ジーパンのポケットへ手を入れた。
「あ、それ」
「岸本一弥」
 運転免許証を読み上げられる。いつの間に財布を取られたのだろう。一弥は立ち上がる。
「お、これは……おまえ、彼女いないのか?」
 時々、利用する風俗店で店員からもらった名刺を見られた。すぐに取り返そうと男のほうへ駆けたが、彼の言葉で足が止まる。
「レイちゃんか。人気ナンバーワンの子だな。あの子、フェラ、うまいだろ?」
 一弥が固まっていると、男は笑った。
「あの店はうちのとこのだ」
 もう二度と行かない、と心に決めて、一弥は、「返してください」と手を伸ばした。男はあっさりと返してくれた。
「だいたい、俺は無関係で、サトウなんて奴の居場所は知らない」
 彼女だって、逃げてと言っていたからには、もうその男の居場所を知るはずもない。そういえば携帯電話は取り上げられたままだ。一弥がそのことを話すと、男が携帯電話はもうしばらく必要だと言う。


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