And I am...番外編6/i | ナノ


And I am...番外編6/i

 伝統建築やショッピングモールを見て回り、疲れた体をスパで癒した後はホテルに戻って長い夜を二人きりで過ごす。スパで使用したオイルは体に残る傷痕をケアしてくれる効能があるものだと聞き、総一郎が大量に購入していた。その一つを丁寧に背中や左脇腹へ残る痕へ塗り込んでくれる。
 エステティシャンと話しながら、日本へ直接、購入したオイルを送る手配を取っている総一郎を見て、自分が気にしていることを知っているのだ、と心動かされた。ホテルにある巨大なアクアリウムが見渡せるレストランで食事をした時も、アクアリウムが好きな自分のために、このホテルにしたのだと実感した。
 マッサージを終えた後、総一郎はバスルームで手を洗い、ベッドへ座った。まだ十九時を回ったばかりだ。
「少しだけ出かけよう」
 総一郎はそう言い、洋平に着るものを渡してくれる。夕食はホテルの外で食べるのだろうか。洋平は食事をしに行くだけだと思い、すぐに頷いた。エントランスから外へ出ると、大きな四輪駆動の車が停まっている。総一郎がためらいなく、その車に近づき、男から鍵を受け取った。
「総一郎さんが運転するんですか?」
 洋平の問いかけに総一郎は笑みを浮かべる。シートベルトをしてから、どこに行くのか尋ねたが、彼は教えてくれなかった。近代的な建物ばかりの中心地に比べ、郊外は砂漠が続く。砂漠地帯に入る前に、ガソリンスタンドでタイヤの空気を少し抜いた。洋平には何をしているのかさっぱり分からなかったが、その作業が終わると、総一郎はまた車を走らせる。
 すでに外は暗くなり、いつ砂漠地帯に入ったのかも分からなかった。奥のほうには、同じく夜の砂漠を見にきた観光客達がいる。総一郎はあまり奥には入らず、二人きりになれる場所へ車を停めた。ライトが消えると月の光だけが辺りを照らす。
「おいで」
 総一郎は後部座席にあった毛布を洋平の肩へかけてくれた。中心地と異なり、夜の砂漠は少し肌寒い。砂の上に腰を下ろした彼の隣に、洋平も座った。見上げると、月と星が輝いている。自宅の二階から肉眼で見る星空よりも、もっときれいだった。
 見える星の数が違う。砂についていた手に、総一郎の手が重なった。洋平は視線をそちらへ落とす。
「明日で旅行は終わりだな」
「はい」
「楽しかったか?」
「すごく、楽しかったです。今も、幸せ過ぎて、言葉が、出てこないくらい……」
 洋平の瞳からあふれた涙が頬をつたう。
「おまえが幸せならいい。これからも……たくさん色々なことをしよう。おまえと一緒に分かち合いたい」
 涙でにじんだ視界だったが、総一郎も泣いているように見えた。手の甲で目を擦り、彼を見ると、赤い目をした彼が笑う。彼は左手に持っていた箱を取り出し、中から指輪を取った。アンクレットと同じくプラチナのそれはきらきらと頭上の星以上に輝いている。
「これからもずっと、おまえの『いってらっしゃい』と『おかえりなさい』をくれないか?」
 胸から込み上げてくる熱い心が喉を通って言葉になる。口を開いた瞬間、漏れたのは嗚咽だった。涙があふれ、言葉にならないことがもどかしく、洋平は肩から毛布を落として、勢いよく総一郎へ抱きつく。
「……くれるのか?」
 総一郎の肩口で力強く頷くと、彼は洋平の左手を取り、指輪をはめてくれた。それから、涙と鼻水で汚れているくちびるへキスを落とす。洋平の嗚咽がおさまるまで、抱き合いながら、月明かりに光る砂や星を眺めた。ホテルへ戻った時、二十三時を過ぎていたが、コンシェルジュへ頼んで夜食を用意してもらい、ベッドの上で何度も愛を確かめ合った。

 日本へ戻ってから、洋平は総一郎の薬指へ同じデザインの指輪をはめた。これ以上の幸せはない、と言った洋平に、彼はいつかくれた言葉を繰り返した。
「もっと幸せにする」
 その言葉はやはり自信にあふれていて、洋平は笑って頷いた。


番外編5

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